幻想水滸伝T

第二十七話 芸術的すぎる宿星

「っと言うわけで、頼まれてよ」
「まあ、いいけどさぁ」
マッシュからではなく、直接頼みごとをしてきたのは踊り子のミーナだった。
なんでも近々本格的なステージを城内に作るらしいのだが、そのイメージ図を作るのについて来て欲しいと言うのだ。
「色んな街回るなら、フェイは確実に連行だな」
「そこらへんの人員は任せる。できるだけ、人の意見は聞きたいから」
多すぎたら逆に移動に困るけどねと言い、最後にお願いねと言って去っていく。
とりあえずハジャは、誰を連れて行くか考えてみたが、メグをどうするか困っていた。



「なんだ。珍しくメグが居ないな」
「まあ・・・な」
結局面子はフェイ以外では、直前について行くと言い出したビッキーだけで、四人で街に来ていた。
なんでもミーナが解放軍に入る前に居た街らしく、宿にあるステージを少し取り入れたいという意見からである。
その宿に着くとミーナは帰ってきたのかと大勢の男たちに囲まれるが、そうじゃないのよねっと追い払う。
「私はちょっとあいさつ回りしてくるから、これに大雑把にスケッチでもしておいて」
ミーナに差し出されたスケッチブックを受け取ると、ハジャはイスに座りステージをスケッチしだす。
「ハジャさん、私もスケッチしたい」
「なら、俺もするかな。・・・暇だし」
三枚も必要はないと思ったが、自分の画力に自身の無いハジャは、ページを破りペンと一緒にわたす。
フェイとハジャは真剣そうに顔を引き締め、ビッキーは子供が落書きをする時のように楽しそうに描いている。
城に居る人がこの光景を見たら驚くだろう。
ビッキーはいつも通りだが、フェイとハジャがこんな真剣な顔をすることはほとんどないからだ。
しばらくペンのさらさらという音だけがするなか、ミーナが戻ってくる。
「どう、描けた?」
まず一番最初に、ハジャのスケッチブックを覗くとミーナは絶句する。
下手なのだ。・・・これでもかと言うぐらい。
線は所々曲がってるし、影を表現したいのだろうが中途半端にペンで塗りつぶしてあるため、汚く感じる。
どう見ても下手だった。
「こんなんでいいのか?」
真面目に聞いているのだろうが、ミーナは他の人のも見ないことにはと言葉を濁す。
次にフェイの紙を覗いてみると、疑問をぶつけてみる。
「何これ?」
「あ〜、良く描けてるだろ。あそこにあるホコリ」
フェイが指差した所を見ると、確かにホコリの塊がある。
しかも、上手くかけているからなんとも言えない。
最後の望みをかけてビッキーの紙を覗くと、あっけなく最後の望みは砕けた。
「ビ・・・ビッキー?」
「上手いでしょ?こっちがハジャさんで、こっちがフェイさんだよ」
ステージすら描いていなかった。
しかも抽象画?と聞くと、お約束のように写実画と言われる始末。
耳が口より下に付いてたり歯が三角形だったり、まるで幼児の絵である。
「も〜、何やってるのよ!こんなんじゃ連れて来た意味がないじゃない」
「ビッキー、上手くかけてるじゃん。目元なんか特にそっくりだな」
「ハジャの絵も、線の歪み方が芸術の極みだね」
「フェイさん上手ですね〜」
ミーナに下手くそのように言われ三人とも絵を見せ合うが、それを誉めあう三人。
脱力するミーナ。
「こんなことなら、イワノフさん連れてこればよかった」
うな垂れてそう呟いたミーナに、三人がそろってスケッチブックとペンを差し出す。
えっと一瞬疑問符を浮かべたが、その意味にすぐ気付き渇いた笑いを浮かべる。
ミーナがスケッチしたステージは三人に誉められる結果となり、結局は一度城に戻りイワノフを連れてくるはめになった。