幻想水滸伝T

第二十四話 二度も起きた宿星

薄暗くなってきた屋上に置かれていた、得体の知れない装置。
それを見たハジャの感想は、「何このゴミ」だった。
「失礼ね、見て解らないの?カラクリよ、カラクリ!」
大げさなジェスチャーで訴えているメグから、視線を自称カラクリに戻してみる。
・・・やはりゴミにしか見えなかった。
「で、この自称カラクリは何ができるんだ?」
良くぞ聞いてくれましたとばかりに、説明を始めるメグ。
ただ、使用用途を説明せずに部分的な部品の説明から入った為、ほとんど理解不能である。
「ってなわけで、これは冷水を霧状にまいて空気を冷やすカラクリなの」
「あ〜、最後の最後でようやくわかった」
説明が回りくどかったため、インパクトが完全に薄れていた。
「何よ、その反応は・・・寝苦しい夜が終わるんだから、感謝しなさいよね!」
「それはありがたいが・・・マッシュに許可とったのか?」
ハジャの一言につーっと目が泳いだ。
「フェイさんになら・・・」
ぼそりと言った言葉に、大丈夫なのかと心配になってくる。
本当に自信があれば、堂々とマッシュに許可を貰っているはずであるからだ。
「とにかく、試運転と実稼動開始!」
ごまかしを兼ねた大声を出したメグは、スイッチを押し怪しげなカラクリは中央部を回転させ始めた。
徐々に回転速度を高めていったカラクリは、霧状の冷水をまき始めた。
「成功だわ。このカラクリの名前は『空気冷やし君』に決定よ!」
確かに霧状の冷水がまかれ、空気がひんやりとしてきた。
だが、どうも安心できないハジャだった。



「起きろハジャ!」
起されなくても、いつも以上に寝苦しく寝ていなかった。
怒声の主は、同室のビクトールのものだった。
だるそうに起き上がると、フリックやシーナ、その他大勢が部屋に詰め掛けている。
「なんだ・・・お前らも寝れないのか?」
「のんきなこと言ってないで、これを見ろ!」
差し出されたものがよく見えなくて、目をこすってみる。
目の前にあったのは湿度計で、ありがたくも無い数値を示していた。
「九十って・・・なんだよ、これ?」
「あのカラクリのせいなんだ。冷水が切れたとたんに、空気は冷えず、霧が蒸発して湿度が上がってるんだよ」
安心できなかった原因はこれだったのか。
冷水が切れてしまったのなら入れれば良いし、そもそもあのカラクリを作ったのはメグなのだ。
何故自分に文句を言うのかと反論してみたものの・・・
「こんな夜遅くに、女の部屋にいけるか!」
至極まっとうなことを言われた。
シーナにはお前が良いなら行ってもいいんだぞと、意味ありげに言われたが。
「解ったよ・・・冷水いれてこりゃいいんだろ」
この蒸し暑いなかに、これ以上詰め寄られたくない。
しぶしぶ了解する。
だが、ふと冷静に計算してみると、カラクリが稼動したのは夜八時ごろ。
今は十二時・・・この計算だと、今冷水を補給しても後一回、朝の四時に起きて補給しなければならない。
そ〜っと振り向いてみると、無言の圧力が大勢多数。
それに刃向えば実力行使間違いなしだった。
「絶対朝一で粗大ゴミに出してやる」
決意新たにしたハジャは、冷水補給四時間後起き、冷水を補給した。
そして、次の日には空気冷やし君をメグに無断で捨ててしまった。