幻想水滸伝T

第二十二話 盗み聞きをした宿星

「いいか、絶対放すなよ!」
「いいからいってこい」
そう言うとフェイは、屋上からハジャを突き落とす。
少し勢いがあったせいで、落ちるだけでなく命綱の遠心力で壁にぶつけられた。
「いって〜」
顔を抑えてしばらくクルクル回った後、持っているデッキブラシで城壁をこすり始める。
湖の上に城が建っているせいか、城壁はコケなどいろんな付着物があり傷みやすい。
よって、マッシュに掃除してこいと言われたのだ。
言われたからあっさりできるものでもなく、フェイが命綱を持ってくれなければ決してできない。
大雑把に移動しながら城壁をこすっていると、一つの窓が目に入り、なんとなく覗いてみる。
「それでさ・・・聞いてよ二人とも」
そこは誰かの個室なのか、メグにテンガアールそしてビッキ−がお茶を飲みながら話していた。
盗み聞きなどがばれたらやばい気がするのだが、ハジャは窓から離れず窓の回りを中心に掃除してしまう。
「聞いてるけど・・・メグってば、ハジャさんの話ばっかじゃない」
「昨日も一昨日もだよ」
「仕方ないじゃない。何かと私のところに来るんだもん!」
少し怒ったように声を大きくする
ハジャは城壁をこすりながら、そういえばそうだなと、何かあるとメグを呼び出していることに気付いた。
既に盗み聞きの罪悪感などは、どこかに行ってしまっている。
「ハジャさんは、メグちゃんが大好きなんだよね」
「いや・・・いきなりそういう結論に達するのもなぁ」
いきなりの爆弾発言を出すビッキーに、ハジャは冷静に答える。
部屋の中でメグが精一杯否定しているが、ハジャにはそんな気はさらさらない。
「この城で親しい子っても、ビッキ―かメグかテンガアールだろ?ビッキ−は瞬きの紋章が怖いし、テンガアールにはヒックスが居るし、メグはカラクリが爆発するし」
「三人とも大好きなんだ」
そうじゃなくてと言葉を続けようとしたハジャだが、一瞬にして固まってしまう
ギギギっと窓の方を見ると、何時の間にかビッキーが窓から顔を出して話し掛けてきていた。
そして、誰と話しているのよとばかりにビッキーをおしのけて、メグが窓からのりだし上を見る。
「・・・何、してるの?」
「ほら掃除、掃除」
一応弁解しようとブラシで城壁をこすってはみたが、メグは無言で取り出したナイフでハジャの命綱を切ってしまう。
「盗み聞きなんて最低!」
メグの怒声がドップラーで聞こえるように落ちていった。
「こなくそ!!」 だが握力を総動員して城壁を掴むと、湖に落ちる一歩手前で滑り止った。
シャカシャカと手足を動かして、件の窓を通り越して屋上へと上がっていく。
「わ〜、ハジャさん凄い凄い!」
「そんなことよりビッキー、テレポートよ!」



「だー!!」
城壁を登りきった先に居たのは、フェイとカスミ。
その事を詮索する暇も無く屋上の扉をくぐるハジャだが、そこへメグとテンガアールを連れたビッキ−がテレポートしてくる。
「さあ、乙女の会話を盗み聞きした罪は重いわよ!」
三人のうち怒っているのはメグだけなので、助けを求めてみる。
しかし、テンガアールは肩をすくめてやれやれと言うポーズをし、ビッキ−は嬉しそうに状況をみているだけだ。
仕方なく観念したハジャは、メグに連れられて屋上に行くと、フェイの持っていたロープで逆さ釣りの刑に処された。