幻想水滸伝T

第二十一話 ロープの先にいた宿星

屋上に上がってきた少女は、屋上の扉を閉めると扉にもたれてうつむく。
何かあったのか、下を向いたまま顔をあげずにそのままでいる。
「どうしたの、カスミ?」
急にかけられた声に顔をあげると、そこには屋上の縁で何故か縄を垂らしているフェイが居た。
「あ・・・フェイ様」
カスミはフェイが居たことに気付くと、慌てて目元をこすり無理をして笑いかける。
「なんでもないです。少し・・・風に当たりたくなっただけですので」
それだけのはずは無いのだが、フェイはそのまま何も聞かなかった。
変わらず縄を持ったまま、ぼうっと遠くを見ている。
会話が途切れ沈黙が場を占めていると、その状況に根負けしたカスミがフェイの所へと近寄る。
「何をしてらっしゃるのですか?」
「釣って言ったら信じる?」
疑問を疑問で返され困っていると、とりあえずフェイが持っている縄を目線で追う。
それは屋上の縁から下、城壁を伝い、その先端は人の腰に巻かれていた。
その人は城壁を掃除している
「俺は、こんなことぐらいしかできないからね」
仮にも城主であるフェイが掃除などを手伝っているのかと、驚いているカスミにおどけていってみる。
「そんな・・・フェイ様はいつも、皆を導かれているではないですか」
そうカスミに言われたフェイは、普段人には決して見せない穏やかな笑みをこぼす。
「そう見えてるだけだよ。実際、大まかな軍の運営はマッシュ。細かなことはアップルやレパント。戦闘はビクトールやフリックにハンフリ−。俺はただ、口で最後の命令をするだけ」
「全てのことをフェイ様がする必要はないじゃないですか」
カスミは自分で言った言葉に驚いた。
リーダーが全てをする必要ないということに。
頭の半蔵の代理とはいえ、解放軍に集まってきた忍びを束ねてはいるのは少女なのだ。
人を束ねるためにどうすれば良いかわからず、カスミは先ほど逃げてきたのだ。
もう一度フェイを見ると、なんだカスミも解ってるじゃないかと言われ、見抜かれていたことに驚いた。
「だてにハジャと一緒に城内をぶらぶらしてないさ」
その言葉にカスミはどきっとさせられる。
自分だけじゃないとはいえ、フェイは自分を見ていてくれていたのだから。
「あ、あの・・フェイ様」
「だー!!」
ただお礼が言いたかっただけなのだが、最大の邪魔者ハジャが現れた。
わざわざフェイが命綱を持っていたのに、自力で城壁を登ってきたのだ。
屋上に上がりこみ、そのまま城内へと走って消えていく。
「何やってるんだ、アイツは・・・ほらカスミ、みんな待ってるはずだから早く行かないと」
「え・・・あっ、はい」
完全に御礼を言うタイミングを逃してしまったカスミは諦め、そのまま屋上の扉をくぐる時に一度振り返る。
カスミはぶつぶつ言いながら使っていた縄をまとめているフェイに、心の中でお礼を言った後その場を去った。