幻想水滸伝U

第三十四話 メグと宿星と坊と

「もうね、私気付いたの!」

珍しく自分の部屋にきて立ちながら力説したメグを、フェイはテーブルに座ってお茶をすすりながら見上げていた。
その眼は哀れみのような同情と、またかといった呆れが半々で込められている。
フェイとハジャが帰って来たのはすでに三日も前の事。
帰って来た直後のあの事件のおかげで、ハジャとメグはお互いかお一つ見せ合っていない。

「ハジャさんの事は私が首根っこ捕まえて、引きずり倒す勢いで近くに置いとかなきゃいけないのよ! ちょっと眼を離せばどこか行っちゃうし、血迷って叶いもしない夢みるし!!」

半分叶いかけていた夢なのだが、そこは叶いもしないとメグはキッパリと断言しておいた。
そしてさらに続けようと口を開いた所に、フェイが先に口を挟んできた。

「まあ、どっちが先だったかどうかはひとまず置いておいて。ハジャの方はすっかり終わってる。メグの方はどうなんだ?」

「え、私? 私は……」

ハジャの相手がジルであれば、メグの方とは、マイクロトフの事しかない。

「実は三日で終わっちゃった」

照れ笑いするようにおどけて言ったメグだが、フェイは乗らずにズズッとお茶をすすっていた。
なんとも冷たい時間がコチコチと流れた後、メグが泣き叫ぶように声を上げた。

「ちょっとカラクリの爆発に巻き込んだぐらいで引かなくてもいいじゃない。ちょっとあの時は派手で城の壁が数箇所壊れちゃたけど!」

「経緯はともかくとして、終わってるのなら問題ない。問題はどう関係を修復するかだな」

「フェイさんも流さないで慰めてよ。ハジャさんなら怒っても後片付けとかつきあってくれるのにぃ!」

「なにが悲しくて」

ノロケを聞かなきゃいけないんだと最後まで言わずに、フェイは話を先に進めた。

「セッティングだけはしてやるが、その先までは責任もてないからな。よく聞けよ」





そのメグがフェイの部屋に来る二時間ほど前、そこにはハジャがいた。
二時間後の誰かと同じように、テーブルに手を着いて立ち上がるとグッと拳を握って言った。

「もうな、俺は気付いた!」

高らかに何かを言おうとするハジャに向けたフェイの視線は、かなりおざなりであった。
すでに同盟軍へと戻ってきて三日。
事故とはいえメグにキスをしてしまってから、ハジャはメグと顔すらあわせていない。

「ウダウダ考えても無駄なんだよ。もうメグの手とって引いて抱きしめて、教会へ駆け込むぐらいで良いんだよ。何か言おうとしても、やろうとしても失敗するだけだし!!」

それが出来ないからこそウダウダ考えるのだがとフェイは一応突っ込まないであげる優しさを見せていた。
だがさすがにコレだけはやっておけと、ハジャが続ける前に口を挟んだ。

「教会を用意してほしけりゃ段取りぐらいしてやるけど、好きだっていえるのか? 誓えるのか?」

「いざとなると確率は低い。あく」

「悪運の紋章に頼ったら、二度と修復不可能になるぞ」

「そんな事言ったって、絶対変なこと口走るに決まってる! また怒らせるに決まってるだろ!!」

進歩したのかしていないのか、フェイはお茶をすすりながら手足をバタバタと見苦しく動かすハジャを見ていた。
結局ハイランドまで行ってなにを学んできたのか。
それとも、なんとかして真っ向から立ち向かおうとするだけで、進歩が終わってしまったのか。
さらにその先へ進むように、フェイはハジャの背中を押した。

「要は、切迫感が足りないんだ。コレを逃したらもうダメだとか、後には引けないってな」

「前それで一度失敗してるぞ……」

それとはメグが浮気する切欠となった、公衆の面前での告白の事である。

「周りからではなく、自分から切迫か…………明日までに考えといてやるよ」





「まっ、ここが一番適任かな」

ハジャとメグから相談を受けたフェイは、同盟軍の街の中にあるとある建物を、正面のドアから数歩離れた場所で見上げていた。
二人の気分を盛り上げつつ、なし崩し的に二人の関係を確定付けるにはまずまずの場所であった。
ただ、諸手を上げて喜んでいるような様子はフェイには見られなかった。

「ずっと前から解ってたことだけどな。男二人に女一人いれば、どうしても一人は弾かれるんだよな」

三人が三人ともそれぞれを友達だと思っていたからこそ、三人一緒にいる事ができた。
その中から二人が恋人になれば、一人はお邪魔虫でしかない。
例え二人がどんなに言い繕っても。
もっとも、フェイは根本的に真の紋章によって時間という枠から、弾かれているのだが。

「それでも、弾かれるのが早いか遅いかの違いだけか」

少し寂しそうに呟いてから、フェイはその建物へと入って行った。