幻想水滸伝U

第二十九話 ケジメをつけようとした宿星

夜に関わらず、強く風が吹いていた。

轟々と音を立てながら、王宮の窓を打ち揺らしぶつかっている。

ハジャの部屋でもソレは同じであったが、ハジャの心中ではもっと強く風が吹いていた。

比較的動きやすい半そでとハーフパンツを身につけ、腕には籠手を、足には具足を身に着けていた。

最後の仕上げとばかりに額にハチガネを巻きつけ、カイから貰った地爪混を手に握り締めた。

「まさか、お前がそこまでジルを好きだったとはな」

揶揄ではなく、確認するように珍しく完全武装したハジャに対しフェイは言った。

「別にジルさんがどうこう関係ない。ただ俺が納得したいだけだ。もっともジョウイがこんな自己満足に付き合ってくれるかどうかは疑問だが」

「お前なあ……付き合わざるをえんだろう。お前がジルに手を出そうとしていた事は王宮の誰もが知っている。お前からの挑戦を逃げたら、誰もジョウイを認めない。それに仮にも万が一、ありえないとしてもジルがお前を好きだとしたら、憂いが残るしな」

言い切ってから気がついてみれば、ハジャが戦意を半分ほど消失させていた。

がっくりと床に膝を着いて、まるで懺悔するように頭をうなだれていた。

「悪い、素直に言いすぎた」

「そこか?! そこを謝るのか?!」

悪びれた様子もなく肩をすくめたフェイに憤るが、やはり受け流される。

「くそう、さっさと決闘場所へ行く。これ以上戦意を失ってたまるか」

大声で自分を鼓舞するようにして出ていたハジャ。

その足が先ほどまで震えていた事に気づいていたフェイは、上手くいったかなとにこやかに笑った。

「無理しちゃって。一対一の決闘なんて初めての癖に……でも、あれぐらいメグにも精神誠意みせてやればよかったのに」

一人取り残されたフェイは、もう一度肩をすくめて窓の外を見た。

風が先ほどよりも強くなり、夜の闇をそのまま押し流してしまいそうなほどであった。





「おわっ」

風と言うよりも、突風が吹いた事で地爪混を取りこぼしそうになったハジャは、慌ててそれを掴んだ。

そこはかつてルカに稽古を……あれが稽古と呼べるかどうかは置いておいて、つけてもらった訓練所。

ハジャが風に押し流されそうなままに待っていると、悠然とジョウイが現れた。

白いコートのような上着がバタバタと音を立てて、はためいているが、本人は気にした様子もなく一本の混を握っていた。

先端に龍が模してあり、宝玉をかみ締めて見目ははるかに地爪混よりもよかった。

ハジャに相対するようにして、ジョウイが止まった。

「よう、来てくれてありがとうってのも変な話だな」

「僕はできれば穏便に事をすませたい。貴方はフェイさんの友であり、おそらくシンファの友でしょう?」

言葉とは裏腹に、顔は鉄のようにピクリとも動いていなかった。

はなから無理な相談として理解した台詞のようだ。

「俺はあんまりシンファとは親しくない。だいたいそんな事はどうでもいいんだよ。俺が欲しいのは証拠だ。お前がジルさんを本気で好きなのか。その証拠だ」

「証拠と言われましても、僕の言葉を信じてくれとしか」

「信じられないから怖いのに果たし状なんて出したんだよ。本気なら、なんでシードを使って辺りを監視させていた? そんなのはなっから目論見があって近づいたとしか思えないじゃねえか!」

「そうですか、あのシードの下手な猫の鳴き声は……貴方がいたのですか」

諦めたような呟きの後、ジョウイは混を構えた。

それに習ってハジャも普段のフェイの構えを思い出しながら構えた。

「行くぞ」

「いつでもどうぞ」

気負ったハジャに比べて、ジョウイには明らかに余裕が見て取れた。

先に踏み込んだハジャの突きをかわすと、お返しのつきをハジャの顔目掛けて突き出した。

ビッと音をたててハジャの耳をかすった。

そのまま反撃を許さないように、連続して返すまもなくジョウイが突き続けた。

「くっ、この」

連撃は全て顔狙いであり、一撃でも食らえば戦闘不能になることは間違いなかった。

いくら頑丈をモットーにするハジャでも、頭は脆い。

なんとか首をキリキリ痛むほどに傾けるなどして乾いていたが、その混先の軌道が一気にずれた。

腹へとめり込み、突き飛ばされる。

「ぐおっ!」

顔を狙ってくるとばかり思っていたところに、急に狙いを変えられたために反応しきれなかったのだ。

吹き飛ばされて動かなくなったハジャを見て、ジョウイはゆっくりと頭を下げようとした。

「まだ……礼を言うには早いんじゃないのか?」

腹を押さえながら立ち上がったハジャをみて、さすがにジョウイは顔色を変えた。

まともに入ったはずだと表情が言っている。

「俺はな、お前よりも強いフェイの攻撃を十回以上耐えた経験があるんだよ。ちっとも自慢にならねえが、頑丈だ」

「次は殺す気で行きます」

「第一関門突破だな」

謎の呟きに構うことなく、ジョウイはハジャへと向かって疾走した。

だが、ハジャを目前としてハジャの右腕が光った。

「悪運の紋章よ!」

突風が吹いた。

突風のせいで一瞬ジョウイの動きが止まり、それを利用してハジャが走り出した。

渾身の一撃、ジョウイの腹に地爪混がめり込み、先ほどのハジャのように吹き飛んだ。

ハジャは力尽きるようにして膝を突き、ジョウイを待つ。

証拠が欲しいのだ。

どんな障害が現れても、それをねじ伏せていこうとする気概。

それが第一関門。

そして第二関門、倒れふした時にでも再度立ち上がり向かっていく事。

「どうだ?」

倒れたままのジョウイを見て、まさか本当に気絶してないだろうなとハジャは冷や汗をかいた。

先ほどの一撃は思ったよりも深く入ってしまったのだ。

だが、そんな心配はいらず、ジョウイは立ち上がり落ちていた混を拾い上げた。

突き飛ばされた時に足でも痛めたのか、引きずりながらそれでも向かってくる。

「第二関門突破だな」

向かってくるジョウイを見ながら、ハジャは地爪混を捨てた。

風に身を任せるようにして呆然と立ち尽くし、振り上げられる混をみながら吹き飛ばされていった。

さすがに気を失う事はなかったが、その一撃が本気であった事は間違いなく……立てなかった。

「そして、決して……決して躊躇しない事。本気だよ、お前は」

「ありがとう、ございました」

頭を下げて去っていくジョウイを見ることは出来なかったが、雰囲気で去って言った事はわかった。

倒され仰向けになったハジャの目に映るのは、夜空、曇りのおかげで星すら見えない夜空であった。

「そろそろ、帰るかな。本当なら、あっちを先に決着つけなきゃならんかったわけで……」

そのまま子一時間ほど夜空を見上げながら、ハジャは言った。

「体が動かないんですけど」

その言葉が風にのって誰かに届く事はなく、一晩中ハジャは風にさらされる事となった。