幻想水滸伝U

第二十六話 ここでもお茶会に呼ばれた宿星+坊

「…………」

「…………これか」

一つの部屋で二人が向かい合いながら、手元のカードを覗き込んでいる。

そして、お互いがはさんだテーブルの上には、絵柄ごとに並べられたトランプが並べられていく。

七を発端に、両側が徐々に埋められていく。

「なあ……フェイ」

「なんだ?」

カードを並べる作業を止めることなく、ハジャは言った。

「二人で七並べってすっごく無理がないか?」

「だから最初にルカも入れようって言ったじゃないか。三人なら二人よりはまだ、マシだ」

「マシな程度だろ。それにルカはカード出せって脅すから嫌だ」

「ったく、ポーカーにブラックジャック、大富豪。俺に全敗して泣きついてきたのはお前だろ? なんなら七並べ止めて、神経衰弱にするか?」

「いや……それもどうかと、あ〜止め止め! つまらん。暇だ。」

ハジャは止めると宣言すると、すぐさまテーブルに並べられたトランプをぐちゃぐちゃにかき回した。

勝手にやめてぶち壊した事にちょっとムッとしたフェイだが、黙ってトランプを片付ける。

「まあ、暇なのは賛成だ。向こうなら、誰かしら手の空いてるものが見つかるんだが」

「ルカはいなくてもいいけど、たぶん公務。シードも兵の訓練とかでいないし」

「ジョウイもな」

基本的に、フェイとハジャはやる事がない。

肩書きとしてはルカの護衛役を貰っているが、そもそもルカに護衛など必要ない。

ルカがそれだけ強い事もあるが、単に二人をそばにおいておくための方便なのだ。

だが、何故かちゃんと給料がでていたりする。

「たまには街に出て雑多な感じを見てこないか? こうキッチリ整理されすぎた場所だとダメみたいだわ」

「ま、一般庶民だからなお前は」

鼻で笑ったフェイに何か言い換えそうとすると、ドアがノックされた。

「フェイ様、ハジャ様。少しよろしいでしょうか?」

ドアの向こうから放たれた声は、二人に聞き覚えの無い声であった。

だが、警戒するなんてアホな事はしない。

「空いてますよ」

ハジャは気軽に応えると、声の主を部屋へと招きいれた。





八割方がガラスなのではという透き通った扉を開け、光さす庭へと出る。

切りそろえられ整えられた庭木に、飾り付けられたような花園。

その真ん中をレンガを敷き詰められた道が伸びて、たった一つ置かれたテーブルには女性が座っている。

「なんだろう。期待……この胸が感じるのは期待なんだけど、わずかにこびりつく嫌な予感」

「そうだな」

行くべきか、引くべきか迷っているようなハジャだが、フェイはあまり関心が無いようだ。

「ハジャ様、フェイ様。こちらへどうぞ、もうすぐステキなお茶が入りますから」

「はいは〜い、ただいま!」

「決断はやッ!」

庭に一つ置かれたテーブルにすわっていた女性、ジルに呼ばれるとハジャは一目散に駆け出した。

その変わりようにフェイもなれない突っ込みをしてしまう。

「おい、フェイ何してんだよ。早く来ないとお茶が」

「浮かれすぎだアホ。そんなすぐに冷めるか」

「俺に飲まれちゃうぞー☆」

「お前が飲むのか?!」

「ハジャ様、気をつけてくださいね。まだ入れたてで少し熱いですから」

お茶に口をつけて本当だとハジャが熱がると、ジルが笑う。

まともなお茶会だと思ったが、これはこれで変な空間だと思いつつフェイもテーブルについた。

「こうしてお話しするのは初めてですね。ジル ブライトです、兄がいつもお世話になっております」

「ハジャです。これから貴方のお世話になります。もちろん彼女いませんから安心してください」

「そうですか。それはこちらこそよろしくお願いします。早く意中の女性が見つかるといいですね」

「もう見つかってます。いまめ「フェイだ」」

ハジャの声に重なるようにフェイの名乗りがあがる。

思い切りにらまれたフェイだが、視線はジルのほうにあった。

今の会話の流れに戸惑うどころか順応して、慣れているのか天然なのか決めかねている。

「ハジャ様には以前に言いましたが、最近の兄は本当に楽しそうです。だからお二人とは私も仲良くさせていただきたいと思っていたのです」

「俺も貴方とはな「だから本日このようなお茶会を?」か……」

「はい、その通りですわ」

にっこりと何の影もなく笑って見せた彼女を見て、フェイは席をたった。

「どうかなさいましたか?」

「いえ、今日は用事が有りましたので顔をみせに着ただけです。後はハジャが残りますので」

その台詞により反応したのはハジャだった。

二度も台詞の途中で割り込まれ、このチャンスをぶち壊されるのかと思ったからだ。

「そうですか、それでは後でクッキーだけでもハジャ様に持って帰っていただきますね」

「どうも、ありがとうございます」

軽く頭を下げると、フェイはハジャに片手を上げてから去っていた。

ハジャはそれをうまくやれよと言った合図だと解釈し、握った右手の親指を立てて合図を返した。

だがその真相は……庭から宮中に入る扉の前で、一度フェイが振り返る。

「お前が相手になるような娘じゃないぞ。演戯じゃないのにアレだけの笑顔を意図して作れるとは、ルカの妹だけはあるよ」

庭の中でテーブルを囲む二人は、楽しそうには見えた。