幻想水滸伝U

第十九話 ハイランドについた宿星+坊

ビッキーのテレポートで旅立ったハジャとフェイは、予定ではハイランドの王都ルルノイエに着くはずだった。

だがあくまで予定であって、急に変わる事もある。

一応は王都に間違いないが、二人が現れた場所で熱い水柱が二つ立ち上った。

「ブハッ……熱ッチ、なんだ何処だ此処!」

「服さえ着てなかったらこの湯を楽しめるんだが……本当に熱いなどっかのじーさんの家か?」

「じーさんの家にしてはやけに豪華な」

フェイのお坊ちゃんな感覚では普通のようだが、キラキラと黄金に輝く壁と床にハジャが普通の感覚で応える。

そしてキョロキョロと広い風呂の中を見渡すと、湯煙の向こうに打ち震える誰かがいた。

「き〜さ〜ま〜ら〜」

「まずいぞフェイ、じーさんが大層ご立腹だ。ここは誠意を尽くして平謝るしかない。誠意を尽くせばきっと真心は伝わるはずだ!」

さっそく湯船のなかに膝を床について土下座を示そうとするハジャだが、フェイは一向にその気配をみせない。

その人物に心当たりがあるようだ。

「いや、確かシンファの話では真心をつくしても駄目だったと聞いたぞ」

空気が流れた。

湯煙の向こうで立ち上がった姿が、あらわとなる。

その姿、壮麗……だがその手に握られたものが暴力的な美しさまで引き立てていた。

素っ裸な時点で、全てがぶち壊しだが。

「なんでこの人、風呂場にまで剣をもってきてんのー! 武士(もののふ)にしても度が過ぎてるよ!!」

「狂皇子の名は伊達じゃないな。ピンポイントで此処に飛ばしたビッキーのあわてん坊ぶりも伊達じゃない!」

「狂皇子? このお方がルカ ブライト様?!」

「ほう、この俺の名を知ってまで風呂の邪魔をするわ、顔に湯をかけるわ。このブタが!!」

ルカは相手の正体など興味が無いとばかりにその手の剣を振り上げる。

「さあ、ハジャいまこそ真心を見せるときだ。お前の小者っぷりを見せてみろ」

「ば、ばか押すな! お前さっき真心が通じないって言ったばかりだろうが!!」

「ブタは死ね!」

畜殺するき満々のルカが剣を振り下ろした。

剣圧で湯船が割れて床にヒビがはいり、巻き上げられた湯が雨のように三人の体に降り注ぐ。

「ほう、ブタの癖によく避けたな。だがお前らの運命はこの俺の前に現れたことで決まった。さあ、泣いて命乞いをしろ。ブタどもの無様な姿を堪能した後に殺してくれる!」

「フェイ……今回は真面目に命の危険だぞ! 悪運の紋章使っても死ぬのがお前の後か先かの確率が変わるだけの気がするし!!」

「なあそろそろお前刃物に勝てるようにならないのか? 全身の鉄分を集めて鋼鉄化とか」

「俺は人間だ! 奇人変人その他と一緒にするな!!」

「……いままで何しても死ななかったくせに」

「いまさらそんな根本的なこと突っ込んじゃうんだ!」

二人はルカの存在を忘れている。

「この俺を無視するとは、いい度胸だブタども」

「まあ待て、ルカ ブライト」

わなわなと怒りに震えだしたルカをフェイが手で制する。

一応忘れていたわけではないようだ。

「取引をしよう」

「取引だと?だれ」

「これから俺達と戦って、俺達が勝ったら、俺を護衛として、ハジャを専用ブタ声機として雇え。負けたら、ハジャを煮るなり焼くなりすればいい」

「あれ? 俺だけ煮て焼かれて二度調理されちゃうの?! しかもモガッ」

ルカが反論する前にハジャは内容を言いきり、ハジャを押さえ込む。

専用ブタ声機は誰が突っ込むのだろうか。

だがルカはフェイの提案に悩むそぶりをみせているようにも見える。

「心配するなルカ ブライト。こう見えてハジャはどんな仕事でもこなす器用貧乏だ。ブタの鳴き声などこの通り」

「仕事ならなんでもまかせろ、ブヒッ、ブヒーー! これなら文句……ってこらぁ!!」

ちょっと上手かったので、フェイは笑いそうになるのを必死でこらえる。

「ふっ……いいだろう」

「いいの?! 誰か、誰かまともな人! この人たちの会話に突っ込んで!!」

「だが、この俺に勝てたらだ!」

ルカが湯の中を軽々と走っていく。

その目指す先にいるフェイは、荷物の中から天牙混を取り出して構える。

「はああああああ!!」

「おおおおおおお!!」

剣と混が十字に交わり、戦いが始まった。

「あ……えっと、一体私はどうすればいいのでせう? ブ、ブヒッ?」

一人、交われないブタがいた。