幻想水滸伝U

第十五話 年季の違いすぎる宿星+坊

「平日の、しかも真昼間から竿とバケツを抱えて船着場へ……嬉しい筈のこの行為が、何故に今日はこうもむなしいのか」

「仕事干されたからだろ、間違いなく。店長に刃物で襲い掛かったんだ、首だ首」

「くそ……俺にあの状況でどんな選択肢があったんだよ」

先日どうすることも出来ない事情から、ハイ・ヨーを襲ったハジャは、暇を言い渡されていた。

仕事を続けられるかどうかは、また追って連絡があるらしい。

首の可能性は明らかに高い。

「過ぎたことをいつまでもほじくり返すな。久しぶりの釣りなんだ。楽しめ」

「ああ、俺も出来ればそうしたい……したいが、お前のその完璧休日釣りルックが楽しみにしすぎて憎いんじゃ!!」

ビシッとハジャが指差したフェイは、釣竿とバケツをオプションとして、オールオーバーに麦藁帽子、ゴム長靴と完全にやる気である。

どう考えても失業を慰めるためとは考えにくい。

「なんで俺がお前に気を使わなきゃいけないんだ。気を使え、この召使」

「誰が召使だ。一度徹底的に決着つけたろうか!」

「これまでの戦績は俺の九十七戦九十七勝……これ以上どう決着つけるのか聞きたいな」

「コロスッ!」

「おら、静かにしねえかガキども。魚が逃げちまうだろうが」

お互いに釣竿を使ってチャンバラに発展しそうになったときに声を掛けたのはタイ・ホーだった。

止めるついでに自分の竿でフェイとハジャの頭をポコンと叩く。

「この釣り場は公共の場ですから、騒ぐと上から出入り禁止くらいますよ。まあ、今回は見逃しますけどね」

タイ・ホーの後ろからヤム・クーまでもっともな意見と共に止めに入る。

フェイにとってもハジャにとっても出入り禁止はさすがに痛い。

しぶしぶではあったが言いあいをやめ、手ごろな場所を陣取り二人で並んで座る。

「なんだかんだで並ぶんだな、お前らは」

「兄貴、こっち場所空いてますよ」

ヤム・クーに進められた場所に座るタイ・ホー。

だがすぐに何かを探すように、服のあちらこちらに手を突っ込んでまさぐりだした。

「はい、兄貴。これでしょ、お気に入りの釣り針」

「おお、すまねえヤム・クー。これじゃねえと気がのらねえんだよ」

「知ってますよ」

釣り糸に針を結ぶと、タイ・ホーは湖へと針を投げ込んだ。

一方、タイ・ホーたちのほぼ後ろにいる二人はと言うと……

「あれ……おいハジャ。俺の釣りえさ知らないか? 持ってきたはずなんだが……」

「ああ? 知らねぇよ、そんなもん」

そう言ったハジャの口が何故かモゴモゴ動いている。

「って、お前なに食ってんだよ」

「ん? お〜、お前が持ってきたおやつの羊羹。ちょっと喉に詰まるけどな」

「そいつが釣りえさだ、バカ!!」

怒りに打ち震えながらもフェイがハジャを殴らなかったのは奇跡だろう。

ただ単に後ろにいるタイ・ホーたちの脅しが効いているからだが。

またまた、後ろのタイ・ホー達。

「そういや、兄貴。今日の食堂のランチはなんでしたっけ?」

「ん〜、たしかヤムの好きなマカロニコロッケじゃなかったっけか? 俺はもっと辛味のあるもんがいいが」

「今日はランチとは別に一品頼みましょうか?」

「それじゃあ……」

「酒はダメです」

「う……」

兄貴の事はお見通しですと言わんばかりに、言葉につまったタイ・ホーを笑う、ヤム・クー。

またまたまたまた、後ろのフェイとハジャはと言えば……

「ンゴッ……の、喉が」

「そのまま死ね。釣りエサを喉に詰まらせたのが原因とは最後まで面白い奴だったよお前は」

「あき、あきらめ……お茶…………」

「あ、バカ。それは」

ハジャが必死の思い出手を伸ばしたのはフェイが持ってきた水筒である。

慌てているのにかなりの速さでふたを開け、お茶を喉に流し込む。

「渋ッ!」

「吐き出すなきたねえな! 俺は渋いのが好きなんだよ」

「渋いのを通り越してマズッ!」

「お前は人様の味覚をバカにできるほど立派な味覚か? おい!」

「まずいもんをまずいと言って何が悪い!」

二人のやり取りを聞いていてタイ・ホーがふっと笑った。

ヤム・クーも同じく笑っている。

「若いな」

「若いですね……思い出しますよ。礼儀がなくて口が悪くて、喧嘩っぱやい昔の兄貴を」

「けっ、そっちこそ根暗で根性なくて女だけにはもてやがったくせに」

「最後のはほめ言葉ですよね」

「うるせえよ」

結局は静かにしきれなかったフェイ達二人だが、タイ・ホー達は楽しそうに笑っていた。