幻想水滸伝U

第十二話 の宿星+坊

今日の俺は一味違うのか。
レストランのウェイターをしながらハジャがそう誤解しても仕方のないことだろう。
なぜならレストランにいる女の子の視線を全て集めているからだ。
格好良さからくる憧れより、あまりの可愛さに目じりが下がるといった視線だが小さな差異だろう。

「ついに俺の時代がきたのか・・・ついに俺にも、俺にも念願の彼女が」

ガツガツしている所を見せてはいけないと厨房に引っ込んでから呟く。
するとズボンの裾がクイクイと引っ張られた気がした。

「ムー、ムムー」

妙な声も聞こえたが、気にするほどでもないとハジャは無視した。

「ハジャ君、五番テーブルのかに玉上がったあるよ」

「直ぐ行きます!」

棚から受け取り皿を数枚出して、お盆にかに玉と一緒にして載せる。
お盆を持ってフロアに出ると、やはり集まる女の子の視線。
ハジャは再度自分の時代が来たと認識した。
浮かれるままに五番テーブルへとかに玉を運んでいく。

「って、お前らか」

「知合いでも愛想笑いぐらいしろよ」

「目安箱にレストランのウェイターの態度が悪いって書いちゃうよ」

運び先のテーブルの主がフェイとメグであることにあからさまにがっかり感を見せる。
これが女の子がいるテーブルならばお近づきのきっかけになろうものだが。

「・・・なんだそいつ?」

「あれ、ムクムク君・・・そんな所でなにしてるの?」

「ムー、ムムムームムー」

無駄な妄想にハジャが脳みそを使用している間、メグがヌイグルミのようなものを床から抱き上げる。
赤いマントをつけたムササビだ。

「ムー、ムムー」

「・・・・・・・・・」

「なんでこのムササビはハジャの後ろを付いてまわってたんだ?」

「ん〜、良くわかんないけれど人の後ろについて歩くのがこの子の癖なの」

「あ〜するってーと、なにかい?」

こめかみに人差し指を置いたまま、ハジャは全てを整理していく。
自分に集まる女の子の視線、憧れよりも可愛いヌイグルミを見た時のような顔。
すべてがピンときた。

「お前のせいかい。人の純情踏みにじりよって!」

メグの胸に抱かれたムクムクへと手を伸ばすが、一瞬早く抜け出した。
ハジャの手はそのままメグの胸へと一直線。
柔らかな感触が伝わるのと同時に鋭い平手打ちがハジャの右頬を襲った。

「何するのよ!」

「ち、違う。俺はただあの毛玉を」

「毛玉ね。・・・そんなに小さいんだ」

「ほぉ〜良い度胸ねハジャさん。女の子を公衆の面前で侮辱した罪は重いわよ?」

ポキポキと指を鳴らしながらメグが迫る。

「馬鹿、今言ったのはフェイだろう!」

「ムームムー、ムー!」

「お前は黙ってろ!」

良くわからない抗議をするムクムクをフェイへと投げつける。
一度はフェイに受け止められたものの、すぐさまムクムクはフェイの手から飛び立った。
紙飛行機のように滑空してフェイの顔面に張り付いた。

「ムー!」

「ぶッ、なんだこの。離れろ、毛が口に・・・生暖かい!」

ムクムクが何をしたいかは不明だが、おかげでハジャは床に倒れこみ必死に剥がそうとしている。
その姿があまりにもおかしくれそこら中からクスクスと笑う声が聞こえてくる。
メグもあきれ果てて怒気は何処かへ消えうせてしまった。

「フェイさん、冷めないうちに食べようか」

「ハジャの痴態を見ながら食う飯ってのは嫌なもんだな。まずくなる」

「そう思うんなら助けろよー、邪魔だ毛玉!!」

「ムー、ムムムームー!」

必死にハジャの顔面にしがみついて離れないムクムク。
この喜劇はまだしばらく続いたが、結局ムクムクが去っても彼が何をしたいかは不明であった。