幻想水滸伝U

第九話 夢の跡へと行った宿星

三年、言葉にするとたった二文字だがそれなりに長い年月だった。
出会い、別れ、そして再会。
それらを経験していく間に自分は変わっただろうか。
正確には、彼女との間で何が変わったのだろうか。
世界が深く静まり返る夜の間、ずっとハジャはそんな事を考えていた。

「もしかして自分に酔ってるのか?」

そう思うと自分の馬鹿さ加減に呆れるが、昼間の労働で疲れた体に睡魔は襲ってこない。
このまま不眠症になったらどうしよう。
少しだけ思考をそらす事で、いつの間にかハジャは眠りに落ちていた。





朝起きると眠れた事に、本当に酔っていただけかと不安になってしまう。
それでも悩みのようなよくわからないモヤモヤ感は健在で、着替えを済ませるとハジャは彼女の元へと向った。
大きな鏡の前に立つビッキーは、羨ましいぐらいに変わりがなかった。
いつもなら能天気だなと苦笑してしまう笑みに安心する。

「あ、ハジャさん」

「よう、おはようビッキー」

眠る事には成功したが、疲れを取るには不十分な時間であった。
それゆえにハジャが返す返事はかなりあくびまじりであった。

「コップありがとうございました。今度みんなでお茶飲みましょうね」

「時間がとれたらな。それよりちょっと頼みたいんだけど」

「テレポートですか?」

「そう・・・なんだけど」

なんとも気まずげに視線をそらすハジャに不思議そうにビッキーは首を捻る。

「場所がちょっと遠いんだわ。トラン共和国・・・エンレードル城」

「あ、それなら大丈夫です。私がんばれば裏側だっていけますよ。それじゃあ行きますね」

「ああ、頼むわ」

「えいッ!」

なんでもないような気合を入れる声。
一瞬目の前が暗くなったかと思うと、次の瞬間ハジャは懐かしの城の屋上にいた。
エンレードル城、三年前にフェイが筆頭となり暁帝国を打ち破った解放軍の本拠地である。
その懐かしさにハジャの足が自然と屋上の縁まで歩んでいった。
視界一杯に広がる湖面。

「懐かしい・・・あの頃はよくこっから落ちて無事だったよな」

恐る恐るといった感じで下の湖を見下ろすと、少しめまいがする。

「こわ」

ハジャはへなへなと縁を背に座り込んだ。
屋上に吹く少し冷えた風を感じながら、これからどうしようかと考える。
特別に何処かを見て回りたかったわけではなく、なんとなくきたくなったのだ。
だが、いざきてみれば懐かしいという感情だけで、何もする気がおきない。

「あ〜・・・そういや、帰る方法を考えてなかったや。鏡は確かシンファが持ってるだろうし」

なんとも呑気に困っていると、自分がテレポートしてきた場所が歪んだ気がした。
その直後、なんとメグが現れた。

「「あっ」」

お互いに気づいた途端に声が出ていた。
もうすでに無視するには遅すぎる。

「・・・なんでここにいるのよ」

「そりゃこっちの台詞だ。俺はなんとなくきてみたくなったんだよ」

「偶然ね、私もよ」

どうしようかと一瞬の迷いを見せた後、メグはハジャに近づくように歩き、縁から乗り出すように湖を眺めた。
ひとしきり湖を眺め堪能してからハジャの隣に縁に背を預けて座り込んだ。
大人が二人の間に座るには狭く、幼子が座るには広い微妙な距離だ。

「なあ」

「ん、なに?」

「俺って、三年前となにか変わったか?」

唐突すぎる質問だったが、メグは真面目に答えてきた。
もしかするとメグも自らの中にある変化にとまどっていたのかもしれない。

「少し背が伸びて、ちょっとだけたくましくなった。中身は変わってないと思う」

「それって全然成長してねえじゃねえか」

「そうかもね。ハジャさんから見て私は? なにか変わった?」

三年経ってもカラクリをいじっている事から中身など考えるまでも無いだろう。
ハジャは隣のメグを見た。
男と女なのだからあたりまえだが、自分とは違いすぎる丸い体。
今さらにそんな事に気付いて恥ずかしくなってハジャは顔を背ける。

「あ〜・・・あんまり変わってな」

「怒るよ」

半眼で睨まれ、言うべきか迷う。

「その、なんだ・・・奇麗になった」

「本当?」

「っと、シーナなら言うと思う」

最後の一言は余計だっただろう。
奇麗と言われて緩んだメグの瞳が一瞬にして刺し殺すような目つきとなった。
だが、それも長続きはしなかったようだ。
諦めが付いたようにため息をつくと、メグは肩の力を抜いた。

「見事に変わり損ねたわね。まあ、その方がハジャさんらしいんだけどさ」

「そんな事言ったら一生変われねえよ」

「いいわよ無理に変わらなくて。まだしばらくは・・・しばらくだけどね」

「しばらくか」

変わらなくていい・・・メグの言葉にハジャは安心していた。
まだ自分には変われない理由があるから、時間という変化から取り残されたアイツがいるから。
ハジャは立ち上がるとメグへと振り向いた。

「帰るか」

「そうね。手、かしてくれない?」

「ほらよ」

初めて繋がる、がさついた手と柔らかく丸みを帯びた手。
それでも二人は、変わらぬことを選んだ。