幻想水滸伝U 第八話 買い物に出かけた宿星+坊 「しっかしさあ」 「ん?」 洋服を自分の体に当てて大きさを確認しながらハジャが切り出した。 今二人がいるのは城下の洋品店であり、ハジャの足元には日用品の詰まった紙袋が置かれている。 「こう急に呼び出されると一々日用品そろえるのも大変だよな」 「旅しているならともかく、一箇所に留まるのに同じ服じゃな。まわりの目も一応は気になるからな」 フェイも突然呼び出されたのは一緒だが、金や着るものは手紙を送ったグレミオから送られてくるため、ハジャほど気にしなくても良い。 稼いだ金が飛んでいくとブツブツ言いながら、結局ハジャは服を三着ほど購入した。 「ありがとうございました!」 元気な店員の声を背に店を出ると、一度何を買ったのか確認していく。 歯ブラシやコップにハンドタオル。 コップ類が異様に多いのはハジャの部屋へと入り浸る者が多いためだ。 「・・・・・・・・・コップが」 「足りないのか? ならさっきの店に戻るか?」 「いや・・・あの店じゃちょっと」 口ごもったハジャはキョロキョロと大通りを見渡しはじめた。 「なあ、誰か知り合い通ってないか。出来れば女の子」 「なるほどな」 そういうことかと勝手に理解すると、フェイもハジャにならって通りを見渡した。 そこら辺の店ではダメで、特別に一つだけ買いたいコップ・・・当然だが、特別な一つだ。 本人に特別だという意識があるかどうかは別として。 「おっ、ナナミ、シンファ。こっちだこっち!」 荷物を抱えたシンファと何も持っていないナナミを発見する。 ナナミは人ごみを鮮やかに潜るが、シンファは大荷物のために少しふらついていた。 「どうしたんですかフェイさん。あれ? この人はどちらさん?」 「ちょ、ナナミも少しは手伝ってよ」 「ナナミは初めてだったか? コイツがあのシュウをデコッパチ呼ばわりしたことで有名なハジャだ」 「あ〜、あの」 「俺はそんなんで有名なのか」 納得したようなナナミを見て、突っ込むが本当のようだ。 今さらどう思われようと仕方の無い事なので、ハジャは本題に入る。 「この辺でその・・・雑貨屋はないかな。女の子が好きそうな物が売ってる」 「女の子って誰ですか?」 躊躇せず尋ねたナナミにハジャは少し後ずさる。 「いや、別に贈り物とかそうじゃなくて・・・機嫌損ねられて面倒だから機嫌取りに」 「ナナミちょっといいか」 口ごもったハジャに変わり、フェイがナナミに耳打ちをする。 話の内容は聞こえないが、ナナミはふんふんと何度も頷いている。 「何を言われてるのかすっげえ気になる」 「たぶんかなり控えめに伝わってるはずです。ナナミって大げさに物事をうけとるから」 何をどう伝えたのかはフェイにしか解らないが、どうやらナナミは理解したようだ。 彼女なりに。 「ここなんかいいんじゃないですか? 前にアイリちゃんから聞いた場所ですけど」 そのアイリちゃんが誰かはわからなかったが、ハジャの見る限りそれっぽい店構えであった。 店の前は花がそろえられており、そこかしこに飾りがかけられている。 窓からのぞく店内は女の子だけで構成されており、桃を基調とした暖色系で占められている。 「まあ、ありそうだが」 「でしょ? 私も前から来たいと思っていたので丁度良かったかも」 喜ぶナナミを置いておいて、ハジャはシンファとフェイを見た。 そして視線で叫ぶ、ついてきてくれと。 「シンファ、俺と一緒に人の上に立つ者という議論をしないか?」 「はい、僕は一度フェイさんと語り合いたいと思っていました」 だが、彼等は逃げ出した。 顔は真面目なままに、かなりの速度で二人から遠ざかっていく。 「はやく入りましょう、ハジャさん」 「ちょ、ちょっと待った。まだ心の準備が」 抵抗むなしく、援軍のなくなったハジャはあっさりと引きずり込まれた。 そしてあっさりと彼女と出会ってしまい、固まった。 引きずりこまれた際にはナナミに腕を組まれるようにされている。 そんな姿をメグに、一緒にいたテンガアールやビッキーに見られたのだ。 「ビッキー、テンガアール。私先に帰るね」 「あ、うん」 ハジャの直ぐ横を通ったメグだが、視線を一切合わそうとしなかった。 かなりの静寂が店内に広がる。 「ハジャさんまずいよ。ナナミちゃんもなんで」 「違うんですよ。ハジャさんはただ贈り物を解にきただけで、私は案内をしただけですよ」 「贈り物・・・私にですか?」 唯一状況の見えていないビッキーが明るく尋ねると、黙ってハジャは店内を歩き出した。 その表情は起こっているようにも見えるが、何も考えていないように透明にも見える。 ぐるっと店内を一周するとコップを三つ手に取って、引きつった顔の店員に渡して会計を済ませた。 「三人に、再会の記念だ」 「ありがとうハジャさん」 「・・・ありがと、じゃなくて!」 テンガアールとビッキーに三つのうち二つを渡すと、残りの一つをもって行ってしまう。 叫んででも止めようとしたテンガアールだが、ハジャの背中には喋りかけにくい雰囲気が渦巻いていた。 |