幻想水滸伝U

第六話 休日を手に入れた宿星+坊

夜が明けて朝日が昇り始める頃には城の大半の人間が起き始める。
メグもそんな大勢のうちの一人だった。
目を開けた瞬間から完全に意識を覚醒させると、手早く着替えて部屋を飛び出した。

「おっはよう!」

すれ違えば顔見知りですらない人にも挨拶を飛ばす。
相手はビックリして声を失っているが、さっさと走り去る。
急いで走ったので何分掛かったかはわからなかったが、目的地が見えてくる。
その部屋のドアまで後数メートル。
ラストスパート、をかける前にそのドアが吹っ飛んだ。

「え゛・・・」

吹き飛び、煙を吐き出し始めた元ドアのあった場所。
唸り声のような叫びが聞こえてきた。

「うぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

その声に追い出されるように見知った顔がバタバタと出てきた。

「ゲホッ、あの馬鹿無茶しやがって」

「ああ、俺の一張羅が・・・折角今日のデートの軍資金を稼いだのに台無しだ」

「なんで、僕まで・・・」

少々すすけて出てきたのはビクトールにシーナ、そしてヒックスだった。
メグに気付いた様子はなく、グチグチといいながら去っていった。
何があったのかと思い恐る恐るドアのなくなった入り口を覗くと、方々に散らばった雀牌、お酒の空き瓶、お摘みなどなど。

「うわっ・・・フェイさん何があったの?」

「おはよう。何があったと言うか、何をやらかしたと言うか」

やけにのんびりと思考にふけり、持っていた湯飲みでお茶を飲みはじめた。

「久しぶりにハジャの休みだからって皆が・・・男ばかりだが、押しかけて騒ぐ騒ぐ。最後まで残ってたのはさっきの三人だが、タイ・ホーとか何故かハンフリーもいたっけ」

「これ貰いに来たんじゃ」

ひょいとメグが拾い上げたのは青汁が入っていたであろう変なにおいのする瓶。
確かハンフリーのお気に入りと言う話をメグは聞いた事があった。

「それにしても・・・こんなに汚しちゃって、まだこの部屋にきて一週間ちょいでしょ?」

「わざわざ掃除しにきたのか?」

「って、違うわよ!」

ハッと気付いたように、ゴミを集めた袋を投げ出した。

「折角ハジャさんにも休みが貰えたんだから・・・遊ぼうかと・・・・・・」

尻すぼみに消えていった言葉には意味があった。
そういえばと部屋の主を探したら、ベッドに倒れる様に眠るハジャを見つけたからだ。
先ほどの叫びは断末魔だったのだろうか。

「ハジャなら当分起きないと思うぞ。眠れる環境でもないのに無理に寝ようとして泥沼だったからな」

「フェイさん・・・ここにいたんなら皆を止めておいてよ」

「やつ等の当たり牌は全部止めといたぞ。完璧にだ」

「はいはい、もういいわよ。今日は諦めたから」

ため息一つで座り込むと懐からカラクリと工具を取りだしていじり始める。
相変わらずそういうのを持ち歩いているんだと思いつつ、フェイは残りのお茶を飲み干した。

「思ったんだけどさ」

「なに?」

「そんなに遊びたいんなら女友達と行けばいいんじゃないのか?」

「フェイさん・・・さり気にその台詞私に冷たいよ」

確かに納得して頷くフェイがいた。

「別にかまわないけど、女の子同士だとどうしても恋愛話が多いし、性に合わないの。まだフェイさんたちと遊んでた方が楽しいし・・・私って変わってる?」

不思議そうな視線をフェイがよこすので尋ねたのだが、首を横に振られる。
フェイが不思議そうにしてたのは変とかそうではなく、自覚が無いんだという視線だった。
自覚がないのはハジャも同じなのだが。

「いいんでないの。人それぞれで」

「ありがと・・・それにしても寝息すら聞こえないね」

「いや・・・途中から起きてた。静かだとそれはそれで眠れない、微妙に腹へってつらいし」

くるりと首だけを回して二人の方を見たハジャの目は死に掛けだが、ちゃんと開いていた。

「仕方ない。私がなにか軽いもの作ってきてあげるから、それ食べてから寝なさいよ」

「わりぃ」

面倒くさそうだが、足取り軽く部屋を出て行ったメグに、特に気にせず礼を言うハジャ。
自覚が無いのにも程があるよなとフェイは冷静に観察している。

「一人でできる趣味でも探すかな」

「あ・・・なんでだ?」

「なんとなく、まだ随分先のことだろうけどさ」

まだ先だがいつか来るそのときの事を考えると少しだけ寂しいフェイだった。