幻想水滸伝U

第五話 軍師相手に一計を案じた坊

カツカツカツカツと指先がテーブルと音をかなで続け、レストランんの一角に響く。
単調で忙しげなその音はなんとも不快で、音を鳴らす張本人を前にしてフェイは顔をしかめた。
だがその相手、メグはフェイの表情に気付いていないようでやめる様子が無い。
彼女の視線は忙しそうにウェイターとして働くハジャに注がれていた。

「いるるるらっさいましー!!」

「ご注文はお決まりでっ!」

「当店自慢のフルコースおまたっ!」

果たして彼は息をする暇すらないのではと思うほど走り回っている。
だが、忙しそうなのはあくまでハジャであってメグではない。
なにが不満なのだろうか。

「メグ・・・いい加減それをやめてくれないか?」

「なんで!」

返ってきた剣呑な言葉に肩をすくめるとぶどうジュースを流し込んだ。

「・・・ん、それで何をそんなにイライラしてるんだ?」

「別にイライラしてなんか」

ドンッとテーブルを叩いてからの台詞では説得力がない。
自分自身でもそう思ったのだろう何かを諦めたようにメグはため息を一つついた。

「あのね、フェイさんたちが此処に来てどれぐらいたった?」

「そろそろ一週間ぐらいか?」

「八日、詳しく言えば八日と七時間四十二分十六秒、十七秒、十八秒」

時間はともかく分と秒数はてきとうだろう。

「折角また三人揃ったのにまだ一緒にどこにも遊びに言ってないんだよ!」

「まあ、借金なんてもの背負ったからな。シュウが本気で徴収する気があるのか怪しいもんだが」

「それよ! そりゃシュウさんを・・・・・・って呼んだのは酷いけど」

一応ソコはごまかすのかとフェイは笑った。
シュウの額後退具合のことは置いておいても、ハジャを抜いての遊びにもそろそろ限界であった。
やはり今ひとつ刺激に欠けるのだ。
シンファと遊ぶのも楽しいが、城主ともなればそれなりに気を使う。
ハジャならばそれすら関係ないだろうが、以前のように。

「よし、俺が良い案を出してやろう」

「本当、フェイさん!」

テーブル越しに身を乗り出すメグにふんぞり返って腕を組む。

「あの軍師の弱点など当に見抜いている。奴はシンファに弱い!」

「えっと・・・それって」

何故か顔を赤く染めて口元を両手で押さえ始めたメグを見て、逆にハジャは顔を青くした。
意味が激しく、果てなく違う。
それでもまあいいかと、誤解を解かぬままにメグと一緒にシンファを探しに出かけた。





「シュウさん、この話は本当なんですか!」

「落ち着けシンファ殿」

「僕は落ち着いてます。だから本当なのかと冷静に聞いてるんです!」

どう見ても落ち着いてないだろうと心の中で突っ込んだのは、その様子を部屋の外で見ていたフェイとメグだ。
当然のことながら純真無垢なシンファに借金をふっかけた話は通っておらず、教えたら即シュウの元へと走ったのだ。

「それにしてもシュウさんのあの慌てよう・・・まさか、本当に」

「いや、そんなおぞましい事はないと思うぞ。というかやめてくださいませんか?」

「えー、でもこういうのって極一部の女の子に受けるんだけど」

何故か敬語を使うフェイだが、メグは残念そうにするだけでやめるようには見えない。
不用意な発言を悔いるフェイだが、ここは自軍ではないしまあいいかと諦めてしまう。
その間にも部屋の中は白熱している、シンファだけが。

「説明してください!」

「確かにそんな話をきかなかったわけじゃないが・・・どこかで話が食い違ったのだろう。すぐにでも通達を出そう」

「本当ですね。嘘だったらただじゃすみませんからね!」

顔をプイっと背けてまるでプンプンと聞こえそうな起こり方だった。
それにしても一つの疑問がフェイには残った。
何故シュウはあんなにもシンファに弱いのか。
あれでは軍師として城主をたしなめる事が出来ないのではないかと疑ってしまう。

「なにしてるんですか?」

突然の背後からの声にフェイとメグは部屋の中に気を使いつつ静かに驚いた。
そしてゆっくりと声をかけたナナミへと人差し指で口元に手を当てる。

「いまシンファの声が、シュウさんの所ですか?」

「だからシーってナナミちゃん、お願い」

「どうしたんですか、メグさん」

「うむ、今丁度シュウがシンファに弱いという理由を調べる為に隠密行動中だ。ナナミも協力してくれ」

嘘ではないが、そうでもないとメグは思ったが即座に耳を疑う言葉を聞いた。

「なんだ・・・そんなことですか。知ってますよ私」

「へっ?」

「シンファってとても子供っぽいんですよ。機嫌を損ねると口を利いてくれなかったり、一緒に御飯でも食べようものなら相手の嫌いな者ばかり注文したり。しかもああやって可愛くすねるからきつく叱れないし」

確かに城主が軍師の話を聞かなければ仕事が滞りまくりであろう。
困る・・・困るのだが、情けなくはないだろうか。
フェイとメグはお互いの顔をみて、なんだかなあと見合った。
シュウのどうでも良い苦労は置いておいて、こうしたフェイとメグの暗躍によりハジャは待望の休暇を手に入れる事になった。