幻想水滸伝U

第四話 莫大な借金を背負った宿星

「例の爆発での城の修繕費、四百万ポッチ耳をそろえて払ってもらうか」

ようやく釈放されてのシュウの言葉にハジャは我が耳を疑った。
アレは確かに事故だ。
仮に責任を追及するにしても自分に来るのはおかしいと思うのだが、目の前の軍師の目はぎらついている。
明らかに私怨である事に間違いはない。

「馬鹿を言うなデコッパチ!」

とりあえずハジャは相手の傷をえぐってみたが、待ち構えていたようでシュウの口がつりあがる。

「例の爆発での城の修繕費、六百万ポッチ耳をそろえて払ってもらうか」

「上がってる! 実は傷ついてたんだ」

「精神的に傷をおった私への慰謝料をプラスだ」

城の修繕費とさして変わらない額であることは突っ込んではならない。
実は城の修繕費が百万ポッチであるなどと知らなくても良いことを知ってしまうからだ。

「落ち着け。俺も今すぐ出せとは言わない。いくつか仕事を斡旋してやるからズタズタになるまで働け。すでにこの城の墓地には貴様の墓が用意してある」

「いや、暗いところは勘弁してくれ。マジで」

「安心しろ。あの世なんて物が存在するのならば・・・お前は地獄行きだ」

そう言われてハジャは悩んだ。

「・・・うう、ソウルイーターに喰われるのとどっちがいいかなんて考えた自分が嫌だ」

手強い、自分の想像を超える思考を持つハジャに少しおののいたシュウだった。





「とりあえずは仕事の斡旋その一。崖のぼり」

場所を移動し行き着いたのは、本当に崖だった。
見上げると均等の間隔で結び目を作ったロープが垂れており、崖を伝って空へと続いている。

「おいデコッパチ、コレの何処が仕事だ?」

「これはこの城のアトラクションの一つだ。崖を登る速さを競い、景品もあるのだが・・・人気が無い」

「いや、当たり前だろ。俺達みたいな一般人には無理だ」

誰が考えたんだ馬鹿にした視線を送るが、シュウは気にした様子も無い。

「そこでお前に一般人でも簡単だと言うことをアピールしてもらう。ひたすら登っては降りて、降りては登ってくれ」

「くっ・・・俺に登れるのか。俺には自信がない・・・だが」

ロープを掴み崖へと足をかける。
腕と足に均等に力をかけて登る。
足の力が弱ければ踏ん張れず、腕の力が弱ければ体を支えられない。
少しずつのぼり、登っていく。
そして下を向けば、小さくみえるシュウの元に誰か兵士らしき男が寄ってきていた。

「シュウ様、珍しいですね。崖登りの訓練志望者がいるなんて」

「奴は兵士ではない。高いところへと登りたいという馬鹿だ。だが落ちれば死亡者か」

「こらー!!」

全てが嘘だったらしい。





「仕事の斡旋その二。ストーカー」

「いや、それは犯罪だって!」

「おいおい、軍師さんよ。このリッチモンドさん相手にそれは酷いんじゃないのかい?」

「黙れ。金を貰って人の身辺調査をしていては似たような者だろう」

リッチモンドと名のったコートの男を切って捨てるシュウ。
どうやらこの男は探偵のような仕事をしているらしいが。

「それで俺にこの男のもとで働けと?」

「ああ、特に女性の身辺調査を担当して欲しい。女を敵に回すと恐ろしいからな」

「確かに男より女の身辺調査の方がガードもリスクも高い。今日からお前は女専用の身辺調査隊員だ。グッジョブ!」

「お前ら普通に人を抹殺しようとするな!」

再び牢屋へ直行させるつもりらしい。





「仕事の斡旋その三。ウェイター」

「やっとまともっぽいのが出てきたな」

テーブルがいくつも並びかなりの面先を誇る食堂。
この城の食を一手に背負っているのかもしれない。
どんなコックが出てくるのか、少しハジャがドキドキしていると彼は現れた。

「イヤー、シュウさん彼が待望のウェイター候補あるか。待ち焦がれたあるよ」

真っ黄色の服を着て竜のヒゲのミニチュア版をつけたような男だった。
解放軍時代のレスターやアントニオに比べると、ひたすらに怪しさ大爆発だ。

「あの・・・デコッパチさん? 私めにここで働きになれとおっしゃるのでしょうか?」

「ハイ・ヨーの腕は保障する。事実このレストランは連日の大賑わいだ」

「私の腕を信じるあるよ。一緒にがんばろうある!」

信じるってなんだろう。
そんな言葉を神様に投げてみたい衝動に駆られながらも、ハジャは差し出されたハイ・ヨーの手を握った。
腕はともかくウェイターと言う職はまともだし、これ以上職を紹介されてもまともな物がないと判断したからだ。

「こちらこそよろしくハイ・ヨーさん。ウェイター以外にもなにかあったら声をかけてくれ。これでも仕事で色々と苦渋を舐めた経験はわんさかだ!」

「それは頼もしいあるよ・・・ムッ! 危ないある!」

掴んでいた腕を引っ張られたハジャの後ろに咄嗟に隠れるハイー・ヨー。
そのハジャの顔の両端ギリギリを何かが通り抜けた。
後ろ数メートル先にある壁からカキンッと金属音が二つ鳴った。

「危なかったあるよ。またあいつらが・・・アレだけは絶対に渡さないあるよ!」

「あるよ。じゃっねー!!」

背後に隠れているハイ・ヨーを蹴り飛ばす。

「なんだここは。本当にレストランか! ナイフが飛んでくるレストランってなんだー!!」

「平気よ。こんな事は一日に何度もないあるよ」

「それはすでに日常茶飯事と言うもんだっ!!」

何を叫んでも、結局はここで働くんだろうなと心の何処かで考えているハジャもいた。
事実、悩みに悩んで二日後にレストランでウェイターをするハジャの姿があった。