幻想水滸伝U

第三話 天魁星と会った坊

天魁星とは、人を導く指標となる人物である。
三年前に天魁星としてその活動を終えたフェイは、向かい合うシンファをみて片目を僅かに開いた。
応接室に招かれ、自分の正面に座る少年・・・その目が眩いぐらいに輝いている。
あの頃の自分とは似て非なる者、そうフェイは感じた。

「それにしてもあの解放軍のリーダーのお越しとは、一体どのようなご用件でしょうか?」

フェイがシンファから視線を移した先にいるのはマッシュの元弟子、軍師のシュウだ。
表面上は友好、非友好どちらも見せずに淡々と喋っている。

「別に、ここに来たのは単なる事故だ」

「我々同盟軍は貴方を歓迎しています。何なりと申し付かって結構です」

「単なる事故だ」

端から信じようとしている節の無いシュウに再度理由を述べるが、結果は一緒だった。
同盟軍には以前解放軍に所属していた者が多い。
そこへ前リーダーが現れればどちらのリーダーに人々は寄るだろうか、軍師としてそれを心配するのは無理もない。

「俺はかけ引きなんて面倒な事はしたくない。はやく遊びたいんだよ」

心から思った事を言ったつもりだが、ますますシュウを困惑させてしまったようだ。
これだから頭の良い奴はと、無駄に相手を詮索する事へ呆れと同情を寄せる。

「アップルにでも聞けば嘘じゃないと解る。あいつも俺達を知ってるからな」

「シュウさん、事故じゃ突然の訪問も仕方ないじゃないですか。あまり長々と引き止めても失礼ですよ?」

「・・・・・・・・・わかりました。では私はフェイ殿の滞在の準備を行ってきます」

「あと、俺のつれも釈放してくれよな。あいつがいないと思い切り遊べないんだ」

部屋を出て行こうとしたシュウについでといった風に告げる。
まだ演技なのかと疑っているようで、小さくわかりましたと返ってきた。

「あの・・・」

一度ドアが閉まってからフェイが腰を上げようとするとシンファが止めた。

「少しお話を聞いてもらっていいでしょうか?」

「聞くだけならな」

少し持ち上げた腰を再度下ろす。

「フェイさんは・・・解放軍のリーダーだったんですよね」

「まあな」

「辛くは無かったですか?」

質問をするのと同時に、シンファの視線がそれ、瞳にあった輝きが僅かに曇る。
恐らくこんな質問を、ある意味心の内を誰かに話すことは初めてなのだろう。

「お前は、シンファは辛いと思っているのか?」

「僕は辛い・・・事もありますけど、楽しい事も悲しいことも嬉しい事も沢山あります」

「なら俺も同じだ」

いともあっさり応えたフェイに、本当だろうかとシンファの目が問う。

「どうせ後悔とか、信念とかいう言葉を使った教えは腐るほど言われてるだろう。だから俺はこう言う、死ぬほど遊べと」

「遊ぶ・・・ですか?」

「ああ、何も考えられなくなるぐらい遊び、日々を楽しめ。辛いか、辛くないか・・・苦しくなる事ばかり考えていると解らなくなる。だいたい日々の楽しさを知らん奴は人としてニセモノだ」

「だから遊ぶ・・・ですか」

二度目のシンファの呟きは、納得が含まれていた。
何かを思い出すようにそっと目を閉じて遊ぶという言葉を繰り返し呟く。
そんな姿を見ながらフェイは、自分とシンファの似て非なる箇所に気付く。
リーダーは、リーダーゆえに同列の者がいない。
必要なのだ・・・同列者、唯一無二の友が。

「解りました。僕はもっと遊びます。いつかまた三人で遊ぶ為にも」

「? ・・・そうか、なら早速街を見物がてら案内してくれるか? あの軍師の台詞から長期滞在になりそうだし」

「はい、それならナナミもつれてきます。大勢の方が楽しいですよね」

「お、早くも応用技を覚えるとは、やるなシンファ」

待って居てくださいと元気良く飛び出して行ったシンファを見送り、今一度フェイはソファーに深く身を沈めた。
英雄を求めるのは人の常なのかもしれないがとため息をついた。

「完璧な英雄なんて詐欺師だ。人ゆえに英雄もまた不完全であるべきなんだ」

少し格好つけすぎた言葉かなと一人吟味していると、ノックもなしにドアが開かれた。
シンファにしては早く戻ってきたなと思ったが、ドアを開いたのはシュウだった。
何故か額が赤みがかかって誰かに叩かれたように見える。
なんとなくソレが誰のせいかわかり、フェイは笑いを抑えるのに苦労した。

「フェイ殿・・・貴方のお連れの方だが」

「独房だろうが、人身売買だろうがお好きにどうぞ。新しい遊び相手も手に入ったし」

「・・・そうですか、それでは遠慮なく」

ドアが壊れてしまうのではと思うほど強く閉められた。
足音が遠ざかるにつれてフェイは笑いを押さえ込むのをやめ、大声で笑い始める。
早速やってくれた。
あの崩れそうに無い鉄の仮面に易々とヒビを入れた友に、盛大な笑いを送った。