幻想水滸伝U

第二話 牢屋は何度目かの宿星

「離せこら、俺が一体何したって言うんだよ!」

「黙れテロリスト。本城を爆破しておいて知らぬ存ぜぬとは行かんぞ!」

「後にシュウ殿が尋問に訪れる。それまで大人しくしていろ!」

二人の屈強な男達が、粗大ゴミを捨てるかのようにハジャを牢屋へと放り込んだ。
放り込まれた時の痛みにハジャが耐えているうちに鍵が掛けられてしまう。

「おい、まてなんで俺だけ。フェイはどうなんだよ。あいつが張本人だぞ!」

「見え透いた嘘をつくな。あの方は大切な国賓だ」

「何だそれは、詳しく話せ。あ・・・こんなくらい所で一人にするな! 俺はダメなんだよ、暗いところは!」

鉄格子を握り背を向けて去っていく男達に叫ぶが、足を止めることすら出来ない。
やがてその背が見えなくなると、ハジャの周りには暗がりと蝋燭程度の僅かな光しかない。
ガチガチとハジャの歯がぶつかり、全身が震え出す。

「おおお、ダメだ。誰でもイイから」

ふと浮かんだのは三年前に自分を牢屋へと迎えに来た少女だが・・・

「へへへ、旦那。慣れればこの場所もなかなか快適ですぜ」

「誰だ貴様。嫌だ〜、出せー!!」

「何事も諦めが肝心ですぜ。おお、そうだ。お近づきの印に鼠でも食いますかい? いけますぜ」

実際にいるのは隣の牢から聞こえる不気味な声の主だけだ。
こんな所一分一秒でも早く出たいと鉄格子をむやみやたらと引っ張り、ねじって押す。
決してくじける事無く二十分ほど同じ行動を繰り返しただろうか。
隣の牢の誰かも呆れ始めた頃に、その救いの少女が瞬きをする一瞬で現れた。

「ハジャさん、いつまでこんな所にいるんですか? 皆待ってますよ」

「ビビビビ、ビッキー!! 誰が待っててもいいからつれてってくれ!」

「そのつもりです。それじゃあ、えい!」

ビッキーとハジャが消えて隣の牢の人が悲鳴をあげた。

「ハジャさん、生きてる?」

メグが来たのは、それからわずか数分後だった。





ビッキーがハジャを連れ出した先は酒場だった。
丁度部屋の真ん中にあるテーブルの上に出現すると、ビッキーが高らかに宣言した。

「ご注文のハジャさんを、ただ今お届けです!」

「た、助かった・・・」

へなへなと脱力すると直ぐ近くでビクトールとシーナの声があがる。

「よっ、女同伴とは成長したじゃねえか」

「そんなことしてると誰かさんが妬くんじゃねえの!」

「なんだよそれ・・・ってか、お前ら人が連行されてくのを暖かく見守るな! それとフェイの馬鹿はどこだ。あいつも同罪だろうが!!」

いきり立ってあたりを見渡すが、フェイの姿は無い。
絶対に探し出してやると酒場を出て行こうとするが、ビクトールの野太い腕にとめられる。

「細かいことは気にすんな、まあ飲め」

「レオナさん、こっちにじゃんじゃん持ってきて!」

「いや、俺はフェイを」

「アイツなら直に来るさ。面倒な英雄としての仕事を終えたらな」

なんとかビクトールの腕を離そうとするが、反対側からフリックに真面目な顔で諭されてしまう。
先ほど国賓といわれていた事からも、本当に面倒な事に付き合わさせられているのかもしれない。
ハジャは運ばれてきたジョッキを一つ、無言で手に取った。

「ならば飲む! アイツの分までじゃんじゃんと」

「ハジャさん、一気、一気」

ビッキーの手拍子に合わせて飲み干した。

「へっ、ちっとは酒に強くなったようだな!」

「チッとばかし群島諸国連合の方に行ってたからな。酒だけは強くなった!」

「って事は腕っ節は弱いままか」

「ほっといてくれ、ほら次。飲〜んで、飲んで」

強いと言っているわりに、そっこう酔っていた。
バケツリレーのように次から次へとビッキーがジョッキを渡す為に、ペースもあったもんじゃない。

「ビッキー・・・わざとやってない?」

「へっ? なにがですかぁ?・・・・・・ックシュ!」

早すぎるペースにシーナが尋ねるが、ビッキーの目はとろんとしていて、今のくしゃみで誰かが消えた。

「あーっはっは。オレンジジュースで酔ってやんの!」

「いや、それおかしいだろ!」

「それじゃあ、もう一回アルコールにお応えします」

「いいぞ、ビッキーマジック!」

「いや、アルコールはいってないから。手品じゃなくて紋章だし!」

「誰がつよくなったって?」

「知るか」

シーナが忙しく二人に突っ込む中、ビクトールとフリックは変わってないとあきれている。
その間にもビッキーのくしゃみで酒場の中の誰かが消えた。
それすらも酒のつまみに変えて行く者達は多く、何故か酒場全体が盛り上がっていく。
だが、ある人物の登場を境にハジャとビッキー以外は多少良いが冷めた。
荒々しく開かれた扉から姿を現したのは軍師、シュウであった。
無言でハジャのいるテーブルまで来ると、容赦なく見下ろした。

「お、あんた誰? まあいいか、あんたも飲め!」

「美味しいですよ、シュウさん」

「・・・貴方がフェイ殿のお連れの方か?」

公的な理由でしかこないよなと誰もが思う中。

「何がフェイ殿だよ、きどっちゃって。このオデコちゃん、この、この」

ペチペチとシュウのオデコを叩いた。
その行動に完璧に酒場中の男達が素面へと引き戻された。

「・・・・・・・・・」

「黙ってないで何か言ってよ。そのお口は飾りですかぁ?」

誰もその行動をとめられなかった。
無言で打ち震えるシュウが怖かったからだ。
やがてパチンとシュウが指を鳴らし、呟いた。

「連れて行け」

「お、あんた達はどっかで見たようなぁ?」

「つい小一時間ほど前な」

「馬鹿な奴だ」

両脇をガッチリと固められたハジャは、ズルズルと引きずられながらお城の地下へと連れ去られていった。
その深夜、城の地下から男のすすり泣く声がずっと聞こえたそうだ。