幻想水滸伝U

第一話 再会した109番目の宿星+坊

同盟軍とハイドラント軍の戦争が激化したとはいえ、彼等の日常が全て非日常へと変化してしまったわけではない。
戦としての戦力を集める為の城やその城下にも、確かに日常があった。
商店街の大通りから外れた少し開かれた場所に多くの人が集まっており、その中心には一人の少女がいた。
常にのほほんとした雰囲気をまとっているはずの少女の顔は引き締まっている。
集まって来た人たちは物珍しげに少女をみていた。

「ビッキーちゃんの真面目な顔なんて初めてみた。シンファは見た事ある?」

「僕もないけれど、知らなかっただけかも」

人垣の丁度最前列を陣取っているのは、エンレッド軍を率いるリーダーとその姉である。

「こんな事、確か昔も・・・なんだっけか」

「お前もかビクトール。実は俺もなんだが」

必死に思い出そうとする声にシンファが振り向くと、そこにはビクトールとフリックがいた。
直ぐ目の前にシンファがいる事には気付かずに「確か昔に」と何度も繰り返している。

「昔って言うぐらい前からお二人はお知り合いだったんですか?」

「ん? あっ、シンファいたのか。すまん気付かなかった」

「いえ」

生真面目にフリックが謝罪を述べると、変わりにビクトールが答えた。

「コイツとは三、四年前ぐらいからの付き合いだ。って事は、解放軍時代ぐらいか」

少し糸口が見えたように断言をするとフリックもそれぐらいかと同じ糸口に行き着く。
それでもまだ該当する記憶には行き当たらないようで唸り続けている。
うんうん唸る二人からシンファが再びビッキーへと視線を戻そうとすると、ガヤつく声の中に甲高い声が響く。

「はい、どいてどいて。どかないとカラクリでふっ飛ばしちゃうよ!」

「ほらヒックス、着いてこないとはぐれちゃうよ」

「待ってよテンガアール」

だんだんとシンファたちがいる方にその声が近づいてきて、人垣からヒョコっと3つの顔が出た。
メグにテンガアールと、おまけのヒックスだ。

「あ、シンファ君とナナミちゃんも来てたんだ。一体何の騒ぎ? 面白そうだから来ちゃった」

「僕もナナミに連れてこられただけで詳しくは・・・ナナミは知ってるの?」

「ん〜・・・私も人づてで聞いたんだけど、ビッキーちゃんが召喚の実験をするって」

ナナミの言葉を聞いた数人の頭に、三年前のとある事件が瞬時にして蘇った。
人垣の中心にいるビッキーと実験という単語。
確か三年前もビッキーの真剣な顔が珍しいと全員が思ったことを思い出した。

「ん、むむむむ」

ビッキーが唸り出し、実験開始はもう直ぐのようだ。
止めるべきか、見守るべきか。

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!」

迷っているうちに終わった。

「ねえ、似すぎてると思わない?!」

「鮮明すぎるぐらいに思い出した。きっぱりと似ている!」

「って事はまたあの馬鹿が来るのか」

メグとヒックスは悲鳴に似た声をあげ、ビクトールは楽しそうに笑う。
そして三年前を知るもの全員が、遥か彼方の空を見上げた。
太陽が二つに見えた。
あの頃と同じように、巨大な火の球がエンレッド城目掛けて突き進んでいた。

「てへっ、失敗しちゃった」

いつもの事だ、っと誰もが心の中で呟いた。





「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「うるさいぞハジャ。どうしてお前はこの瞬間を鳥になったつもりで楽しめない?」

「鳥は自分の意思で飛んでんだよ。俺達は無理やり飛ばされてんだ。気づけ馬鹿!」

火の球の中心では彼等の予想通りハジャと、予想だにしない人物フェイがいた。
物凄い速さで地表と死へと向かう中でもフェイだけは冷静である。

「ほら見ろよ。逃げ惑う人々がありのようじゃないか」

「気づけ、それって死の宣告だから。俺達の!」

巨大な火の球となった二人はとあるお城へと向かっており、そこにいた人たちが散り散りに逃げ出していた。
ハジャはかつてコレと同じ光景を見た事があったが、あの時と違い向こう側に受け止めてくれる人がいない。
それをかつて成し遂げた人物は自分の隣に居るのだ。

「もうこんな人生いやだー!!」

叫んだところで何も換わり変わりはしなかった。





「ねえ、これってやばくない? 直撃コースだよ」

「あ〜、確かに。せめてもう少し角度が低ければデュナン湖にいけたんだが・・・城に激突死か。面白い奴を亡くしたもんだ」

「死んでない。まだ死んでないからビクトールさん」

人々が逃げ惑う中その場に残っていたメグたちだが、打つ手はない。
かすかな望みをかけて現リーダーであるシンファを見た。

「まかせてください!」

なんとも力強い言葉だ。

「みんなが怪我をしたら、僕が治します!」

「それ違うって、原因をなんとか取り除こうよ!」

「大丈夫、シンファはお姉ちゃんが守るから!」

「ナナミちゃん惜しい、けど極地的だよ!」

逐一突っ込んでいる間にも、直ぐソコまで火の球は近づいてきていた。
メグたちの上空を舐めるように火の球は通り過ぎ、お城の建物へとぶつかる瞬間メグは彼らの姿を見た。
ほんの一瞬だが、全く変わっていない少年と、すこし大きくなった少年。

「冥府!」

「ぎゃーっ、闇はいやじゃー!」

丁度火の球がぶつかりそうだった城の建物の前に黒いヴェールが現れた。
喰らい尽くすように火炎を飲み込んで行き、やがて一つの人影が黒のヴェールの上に立っていた。
フェイが優雅に空中に立つ中、ハジャは炎と一緒に飲み込まれそうになっている。

「俺まで吸い込んでんじゃねえ!」

「いや、まだコントロールが完璧じゃなくてな。お前の犠牲は無駄にはしない」

「されてたまるか。悪運の紋章よ!!」

「あ、馬鹿!」

首と右腕だけを残して飲み込まれてしまったハジャが叫ぶと、珍しくフェイも慌てた。
フェイが慌ててソウルイーターの力を抑えようとするが、逆にどんどんとその力の放出量が増えていく。
完全に制御を失ってしまっている、暴走だ。

「お前等、逃げろー!!」

周りの人たちにフェイが叫んだ直後、轟音が鳴り響いた。
さらに人々はパニックに陥り、当人である二人はと言うとさらに空へと吹き飛ばされていた。
やがて固い石畳の上にベコンと落下すると、どういうからだの構造をしているのか痛みを訴えながら立ち上がる。

「ってぇ、安易にその紋章を使うな。何が起こるか解らないとは性質が悪すぎる」

「うるせえ、俺は食い殺されなかったんだから万事オッケーだ!」

今にも互いに掴みかかろうという勢いでまくし立てるが、すぐに周りの状況に気がついた。
自分達を見つめる奇異な視線の中に、懐かしい級友を見る目が多数存在していた。

「「あ、ひさしぶり」」

二人が同時に呟くと、懐かしき友と爆発の余波を受けた見知らぬ人たち殴る蹴ると手荒い歓迎を受けた。
・・・・・・主にハジャが。

「あーーーーーーーーーーーぁぁぁぁ!!」