幻想水滸伝T

第十九話 再び召使になった宿星

今日は特に仕事もせず、惰眠をむさぼっていたハジャ。
それを邪魔するように部屋の扉がノックされる。
無視しようかとも思ったが、マッシュの伝言だと困るので扉を開ける。
そこに居たのはフェイだった。
「黙って、この手紙を読んでくれ」
差し出された手紙を読むと、油が切れたブリキの人形のようにギギギっと顔をあげる。
「また・・・きたのか」
「ああ。今度はさらに、強敵だ」
フェイが持ってきたのは、ヴァンサンからのお茶会のお誘いの手紙。
そして今回は、さらにエスメラルダが同席するとのことだった。



以前と同じ場所、同じ時間に訪れる。
これまた以前と同じように、キラキラと顔を輝かせて出迎えるヴァンサン。
「我が友フェイ・マクドール。再び優雅なティータイムへ」
「フェイ様、ようこそ」
一人キラキラする人間が増えただけで、疲れ方が単純に2倍ではないことは明白だ。
「我が友ヴァンサン、そして愛しのエスメラルダ。君たちに誘われて僕が断るはずもない」
断りたいと顔に書いてあるが、無理やり押し殺している。
以前は気付かなかったが、今はフェイが無理をしているのがしっかりとわかる。
「ヴァンサン様、そちらの方は?」
「彼は我が友フェイ・マクドールの召使。彼は下々の出ながら、とても気のいい人さ。まさに身なりで判断してはいけない、典型のような人」
暗にみすぼらしいと言われているのだが、ハジャは無理やり笑顔でお招きいただきありがとうございますと言う。
今回の手紙には、ハジャも連れてくるようにと余計なことが書いてあったのだ。
「下々の者と一緒にティータイムとは、ヴァンサン様はとても気さくな方ですわね」
「ふふ、それが僕の良いところさ」
頭から息を抜く感じで笑いあう二人に、合わせるように無理して笑うフェイとハジャ。
二度目ともなると多少・・・雀の涙ほどの余裕はできるらしい。
「こうしてフェイ様とお茶を飲んでいると、思い出しますわ。ある日突然現れ、オパールをさしだし私に求婚され、外の世界へと連れ出したフェイ様の姿を・・・」
「我が友フェイ・マクドールは、ちょっと強引なのさ。そこがまた、良い所なのさ」
頬を染め遠い昔を思い出すかのように遠い目をするエスメラルダに、ふふふと笑うヴァンサン。
フェイを見ると、既に余裕は吹きとんでいた。
珍しく泣きそうな目を押し殺すことさえできずに、違う、絶対に違うと訴えていた。
そんなフェイに二人が気付くことは無く、苦痛とも言えるティータイムは続いた。



「フェイ・・・さっきの話」
恐怖のお茶会の帰り、思い切ってハジャはフェイに聞いてみる。
するとフェイは、絶望を顔に張り付かせ答えた。
「アレが全ての始まりさ。何故か普通の宿にいたエスメラルダが、オパールを持ってきたら仲間になるって・・・」
フェイの話は止まることなく、オパールの情報集め。
死にそうになるほどの魔物狩り、そして手に入れたオパール。
ちょっとした冒険劇が書けるほどの話を聞かされた。
「彼女の中では、ずいぶん脚色されてるんだよ」
ずいぶんどころか、話の中に求婚のきの字もなかったのだが・・・
振るえるフェイの背にそれを聞くことははばかられた。
フェイは目元をこすりふりむくと、晴れ晴れとした笑顔で言った。
「あの頃は若かった。仲間になってくれるなら、誰でもいいわけじゃない。良い教訓さ」
ハジャは頷くことしかできなかった。