幻想水滸伝T

第十八話 逃げ出した宿星

夜の消灯、たいまつを消す時間を過ぎると、星明りや月明かりだけが頼りの時間が訪れる。
「ちょっと、何私の後ろに隠れてるのよ」
「馬鹿野郎、俺は暗いのが怖いんだ」
それが本当で、その原因ともなった事件を知っている。
しかし、今更ながら、自分の後ろで震えているハジャに呆れるメグ。
人手不足なのか経費削減なのか、マッシュがハジャに夜の身回りを頼んできたのだ。
マッシュにしては、思い切りミスキャストである。
「何で私が・・・そんなに怖いなら、フェイさんとか男の人に頼みなさいよ」
「こんなみっともないとこ・・・特にフェイに見せれるか」
できれば私も見たくないんだけどと言ってみたい気がするが、ハジャの脅えっぷりがあわれで言うことができない。
もう早く終わらせようとメグは急ぎ足で、ハジャを引き連れ身回りを続けた。



最上階から順に降りていき、地下への下り階段の手前で立ち止まる二人。
互いに顔を見合わせると、顔を引きつらせて笑いあう。
「やっぱ・・・地下も行かなきゃ駄目かな?」
「うっ・・・行きたくねえけど、行くしかないだろ」
今までの階は、色んな人の部屋の前などで人の気配はしていた。
だがここからは違い、消灯後は人の出入りが皆無なのだ。
そもそも地下牢があるようなところ、夜に好き好んで近寄る者もいない。
決心し階段を降りきると、上の階とは違い星明りも届かず、本当に真っ暗であることに気付いた。
「ねえ、明かりになるようなもの持ってない?真っ暗なんだけど・・・」
「よし、俺が明かりを取ってこよう。そういうことで!」
じゃあと片手を挙げ去ろうとしたハジャの襟首を、慌ててメグが掴む。
「そのまま帰ってこないつもりでしょ。もういいわよ。明かりなしでも」
自分でも無茶なこと言ったなとは思ったが、言ってしまった手前ハジャの襟首を掴んだまま歩く。
見回ろうとあたりを見渡すと、奥に見えるぼんやりとした明かり。
明かりの消し忘れかと思い、ちょうど良いので明かりを頼りに進むと、おかしなことに気付く。
明かりが固定されておらず、上下に動き、こちらへと飛んでくるのだ。
「出たー!!」
何が出たのかはわからないが、そう言ってメグの手を振り払い逃げ出すハジャ。
「こらー、女の子を置いて逃げるなー!!」
メグの言葉も聞こえていないようで、ハジャの後姿がそのまま見えなくなってしまった。
その直後に響く叫び声。



「ぎゃーーーー!!」
回り込まれたのか、突然現れた火の玉と人影。
ハジャは、叫び声を上げて気絶した。
「なんだ・・・ハジャか。びっくりした」
それはちょうど今、瞬きの鏡で帰ってきたフェイ。
気絶して倒れているハジャを足でつついている。
その後ろにはビクトールにフリック、ルックさらにヒックスとテンガアールがいた。
「あれフェイさん、こんな時間にどうしたんですか?」
「アンテイの街にいたんだけど、宿賃もったいないから帰ってきたんだ」
奥から走ってきたメグに手短に説明し、そっちはと聞いてみる。
暗がりの中よく見ると、メグの後ろにクロウリーがいた。
「ハジャさんの夜の見回り手伝ってたんだけど、地下が暗くて困ってたんだ。そうしたらクロウリーのおじいさんが、炎の明かり出してくれたの。だけど、ハジャさんが勘違いして逃げ出して・・・」
それでこうと、気絶して倒れているハジャを指差す。
誰もが馬鹿らしいと言いたそうだが、一人だけ違ったのはフェイ。
からかいのネタができたのが嬉しいのか、ニヤついている。
翌日、自分の失態を言いふらされるようなことはなかったが、その場にいた八人。
特にメグとフェイに、昼食をしこたま奢らされたハジャだった。