幻想水滸伝T

第十六話 無駄に頑丈だった宿星

「セイ、ヤー!」
なれない手つきで棒、地爪棍を振る。
すると、驚いたような顔つきでカイがつぶやく。
「・・・こんなに才能の無い奴は、初めて見た」
「そんな悲しいこと、真顔で言うなー!!」
自分から教えてやると言ったくせにと、半泣き状態でハジャは喚いてみた。
「あ〜、いやいや。フェイに勝るともおとらん才能だ」
「じいさん、人の目みて言ってみろ!」
そっぽを向いて取り繕うカイに詰め寄ってみるが、取り合おうともしない。
今朝方いきなり棒術を教えてやると部屋に来たのだが、何を考えているのかさっぱりである。



「んで、なんでこうなってるんだ?」
自分の正面には、天牙棍を持ったフェイ。
まわりはギャラリーの壁ができている。
「恐れることは無いぞ。わしに教えることはもう無いはず」
「三時間かそこらで、無くなるはず無いだろ!」
何故か午前を過ぎると、フェイに果たし状を出してきたと言い出したカイ。
それも大々的に宣伝したらしく、このギャラリーだ。
「すぐやられるんじゃないぞ!十分もつのに千ポッチ賭けてるんだ!」
この馬鹿でかい声はビクトールだろう。
そちらを見るとテンガアールやメグ、そしてシーナ、ヒックスなど一様にガスパー印の券を持っている。
賭けが成り立っているようだが、勝ち負けじゃなくてハジャが何分持つかが賭けの対象らしい。
「ガスパーも、よく解ってるよね」
「うっさい!もう、何でも良いからこい!」
さっさと負けてしまいたかったので、やけくそで叫ぶ。
いつものごとく、審判のフリックがはじめの合図を出した。
ハジャは教わった構えをしフェイを見ると、既にその場にはいなかった。
何処だと呟く間もなく背中に衝撃を受け、前のめりに倒れた。
「はい、終了っと」
一瞬でハジャの背後に回りこんだのだ。
つとめて明るく勝利宣言するフェイだが、ブーイングの嵐である。
いくらなんでもあっさり倒しすぎだからだ。
もう少し、サービスしてもいいではないかと言う事だ。
「いってぇ・・・本気で殴ること無いだろ!」
身勝手なギャラリーに、ソウルイーター使おうかと考え出したフェイの耳に届く声。
起き上がり文句を言ってくるハジャに驚く。
「本気で殴ったんだけど・・・お前、石かなんかでできてる?」
「魔物と一緒にするな!」
よれよれのままフェイになぐりかかった。
だが結果は変わらず、殴り倒される。
そして、何故かまた起き上がるハジャ。
それが十回目になると、ようやく起き上がってくることは無くなった。
賭けの結果は二十三分と、ハジャが粘ったため配当者はおらず払い戻しとなった。



「ちょっと、フェイさん。怪我人に足乗せないの」
医務室のハジャが寝ているベッドの横のイスに座り、足を乗せていたフェイ。
メグに注意されしぶしぶ下ろす。
「これでも俺、傷ついてるんだけど・・・」
「傷って・・・殴られてないじゃない」
メグの言葉通り、結局殴られたのはハジャのみ。
フェイがため息をついていると、カイが医務室に入ってくる。
「気付いてはいる様だな」
メグは意味がわからなかったが、フェイは意味がわかるのか頷く。
「腕が・・・鈍ってました」
それでも意味の解らないメグは首をかしげる。
フェイはハジャに圧勝しただけでなく、ハジャの棍がかすりもしていないのだ。
「最近のお主は、紋章に依存しすぎたのだ。日々精進することを怠ってはいかんぞ」
「十分、身に染みました」
腕が鈍っていたかどうかは理解できなかったが、ハジャが当て馬にされたことは解った。
メグが可哀想にと寝ているハジャを見ると、ハジャの目が開いていた。
・・・話を聞いていたのか、明らかに怒っている。
「じじぃー!!」
「ハッ!」
起き上がり襲い掛かったハジャを、一撃で再び静めるカイ。
「この用に無駄に頑丈なハジャも急所を突けば一発である。精進せいよ、フェイ!」
そう言って逃げ出すように去っていったカイを、冷たい目で見送るメグとフェイ。
そう言いたければ言えばいいのに、何故ハジャを巻き込んだのか・・・最大の謎は残ったままであった。