幻想水滸伝T 第十三話 海に落ちた宿星 「綺麗な夕日だな・・・湖が血に染まったかのようじゃないか」 カクの町からの帰り。船の上で、さわやかに恐ろしいことをのたまうフェイ。 顔は斜め四十五度を向き、体は正面を向いて釣竿を支えている。 「釣れない現実逃避か?」 「連れてないのは、ハジャも同じじゃないか。なに、これ金魚?」 持ち上げたハジャの魚篭の中には、金魚ではないのだが、どうやっても食えそうに無い小さな魚一匹。 「金魚が連れてたまるか。ボウズの癖に」 「君と違って雑魚には興味ないのさ」 はっはっはと笑う割には、顔が引きつっている。 気にはしていたようだ 「五十歩百歩だと思うよ」 互いの魚篭を持ち、なかを見せ合う二人のやり取りに呆れるメグ。 何故そんなくだらない事で張り合うことができるのか、不思議である。 「おっ・・・来た!来た来た、大物だ!」 突如叫び立ち上がるフェイ。 釣竿がギシギシと音をたてしなっている。 吊り上げてみるまで大物かどうかはわからないのだが、引き具合でそう言ってしまうのは釣り人の性だろう。 悲鳴をあげる竿を折らないように、注意深く引っ張りあげる。 「手伝うぞ、フェイ」 なかなか引く力が弱まる気配が無いのを察して、手を貸そうとしたまではよかった。 間の悪いことに船が大きく揺らぎ、バランスを崩す三人。 なお、フェイとハジャは船から投げ出された。立ち上がる水しぶき。 「ちょっと二人とも、大丈夫!ああ・・・もう、どうしよう」 二人が水面に上がってくる気配は無く、船がどんどん遠ざかっていく。 ココで見ていてもしょうがないとメグはタイ・ホーとヤム・クーを予備に船室へと向かった 「「ぷっはぁ!」」 二人同時に水面に顔を出した時、すでに船は大分離れていた。 自らの身を案じるが、メグが乗っているのだからすぐに戻ってくるだろうと思いなおし、 「「お前のせいだ!」」 とりあえず湖に落ちた事を、互いに相手のせいにしてみる。 それでにらみ合ったのは一瞬。 どうなる訳でも無く、沈まないように浮いて待つしかなかった。 「結局、さっきのはなんだったんだ?」 「凄く引きが強かったからな。大物・・・というより魔物かな?」 生き残るための感だろうか、フェイの言葉をキーにそっと後ろを振り返る。 目の前をスーっと横切るのは、背びれ。 湖であるため鮫ではないが、それに近い魔物だろう。 一目散に船目掛けて泳ぎだした。 「近づいてる。こっちきてるぞ!」 「喋ってないで泳げ!」 直接目で確認している訳ではないが、魔物特有の威圧感がどんどん背中に迫っている。 水の中でスピードがかなうはずも無く、必死に頭を回転させ出した答えは、 「死の指先!」 フェイの声で、湖に暗く深い穴が出現し全てを吸い込み始める。・・・二人もろとも。 「嫌だ〜!!闇は怖いんじゃー!」 「状況悪化したぁ!」 魔物は既に吸い込まれ居なくなったが、今度は自分達が闇に吸い込まれることになった。 ハジャは恐怖という根源にある力を使い、この場をさっさと去ってしまう。 しかし、取り残されたフェイはあることに気付いた。 「あっ・・・出したら引っ込めればいいのか」 腕を一振りすると闇は消え静寂が訪れる。 ほっと息をついてから、船のあるほうへと逃げたハジャを捜す。 すると、回りを見ずに逃げていたせいか、助けに来た船に轢かれていた。 |