幻想水滸伝T

第八話 ナンパに挑戦させられた宿星

「ん〜、残念。これから仕事だから。また、今度ね〜」
「今度って・・・ちょっと」
屋上に上がる扉をくぐる時に少女とすれ違う。
少女が向かう先の逆方向には、うな垂れているシーナ。
またナンパでもしていたのだろう。
「通算何敗目だ?」
「恋は最後に勝てばいいんだよ」
ハジャは半眼でシーナを見つつ、あっそと冷たく言う。
すると、二十敗は超えてるよと勢いよく言ってくる。
おおよそで言っているのだろうが、よくもそこまで手を出しまくれるものだ。
「お前も暇な奴だな。仕事ないのか?」
「仕事は親父の役目。俺の役目は、女の子の精神衛生管理なの」
冗談なのだろうが、やっていることは精神衛生を乱しているとも言えなくも無い。
そんなしょうも無い話ばかりしているわけにも行かず、目的の掃除をしはじめるハジャ。
シーナは屋上の縁にひじをかけ、手で顔を支え遠くを見ている。
「なんでこう、上手くいかないかな」
「そういう軽い所が嫌なんじゃないのか?」
「馬鹿野郎、男は広い世界を夢見て色々知るべきなんだよ!」
言ってることは解らないでもないが、その意欲が女の子に一点集中している男に言われたくは無い。
「そもそも、お前の好みはなんなんだ?」
ハジャに問われた内容が意外だったのか、おやっと言う顔をした後腕を組み深く考え込む。
そして出た答えが・・・
「可愛い女の子」
「好みか、それ?」
「そういうもんは考えるんじゃなくて、感じるもんなんだよ。行くぞ!」
「えっ?」
いきなりハジャの襟首を掴んだシーナは、問答無用で屋上から連れ出した。



「いいか、好みなんて誰かを好きになってから気付くもんだ。っと言うわけで行け!」
廊下の角をシーナに足蹴で突き出されると、そこに居たのはビッキーである。
「あ〜、ハジャさん。どうしたんですか?テレポートですか?」
誰に対しても行なう満面の笑みを向けられる。
可能な限りの横目でシーナを確認すると、行け行けとサインを出してくる。
ナンパしろということらしい。
「あ〜、そのなんだ。甘いもの、食べたくない?」
「いいですね〜、甘いもの大好きですよ。すぐいきましょう。すぐすぐ!」
ナンパというよりは、食べ物で釣った感がいなめない。
「私、部屋でサイフとってきますから、先に行っててください。えい!・・あっ」
止める間もなく力を使ったビッキ−に、行き先も決めずにとばされた。
「あはは、失敗しちゃった」
その一言だけでサイフをとりにいってしまうビッキ−。
それでいいのかと心で突っ込んでいると、城の外から聞こえた叫び声。
それと、高い所から湖に何か落ちた音が聞こえたことで、全てを見なかったことにしたシーナ。
「アップルでもからかいに行くか」
一応、お目当ては最初からいたらしい。