幻想水滸伝T

第三話 酒と喧嘩を知った宿星

「ち〜か〜れ〜た〜」
長い、長い一日が終わり、エンレードル城内の宿屋に向かうハジャ。
雑用係りの部屋は無いそうだ。
宿の扉を開けた先には酒場があり、一日の疲れを取るために男たちが大勢押しかけていた。
「お〜い、ハジャ。こっちだ、こっち!」
女将のマリーが何処に居るのかわからず困っていると、熊のように大柄な男がハジャを見て手を振ってくる。
「お前も飲みに来たのか?」
「そんなわけ無いだろ。泊まりの方だろ?」
熊をさえぎり正解を言い当てたのは、青い服装をした若い男でハジャはうなづいてみせる。
二人をなんと呼べばよいか解らず逡巡していると、やはり青い男がそれを察知して自己紹介をする。
「こっちの熊みたいなのがビクトールで、俺がフリックだ。・・・まあ一応、この城の幹部ってとこだ」
「幹部、ねぇ・・・」
ハジャが特にビクトールを見て疑わしげにするが、当の本人はあまり気にしていないようだ。
「んなどうでもいいことは置いておいて、お前も飲め」
強引に座らせられると、勝手に酒の注文までされてしまう。
早くも注文の酒が届き、ハジャの目の前に大ジョッキでビールが置かれた。
ジョッキの大きさに戸惑い、ちらりとビクトールを見ると、明らかにハジャの飲みっぷりを期待している。
フリックは戸惑っているハジャを見て苦笑してはいるが、止める気配も無い。
「飲まなきゃ、いけないのか・・・」
恐る恐る大ジョッキに手を伸ばした。



ジョッキに手を伸ばして、そんなに時間はたっていない。
酒に口をつけた瞬間に、ハジャは真っ赤になり酔っ払っていた。
「私、ハジャは本日三回ほど死に掛け、そのうち二回は闇の中でした!」
「そうだな。俺はそれを間近でみてたぞ」
意味も無く大声を出すハジャの背中をぽんぽんと叩いて、意味の無い慰めをかけるフリック。
ビクトールは、こんなに酒の弱い奴は初めてだと笑っている。
「これも全部・・・」
フェイのせいだと言おうとした所を、いち早くその人に気付いたフリックに口を抑えられもがく。
「誰の、せいなのかな?」
突然掛けられた声にフリックは遅かったかと肩を落とし、ビクトールは成り行きを楽しそうに見守っている。
この時間は自室で寝ている(グレミオに寝かせられている)フェイが、何故か酒場に顔をだしている。
「お前のせいに、決まってるだろ!」
フリックの手を振り解き殴りかかるが、あっさりとかわされ逆に拳を突き出され寸止めされる。
「おいこら、お前らやめないか」
「二人とも、やめること無いぞ。男だったら喧嘩ぐらいすらぁ!」
ビクトールの言葉にまわりの男達もつられ、やれやれと騒ぎ出す。
寸止めされたことに怒ったハジャは、拳を振り回しフェイは寸止めの嵐でそれに答えた。



「ココは、何処だ。・・・ったぁ〜、頭いだい」
目が覚め何処かのベッドの上にいたのはいいが、酷い頭痛に昨夜の記憶も曖昧である。
「目が覚めたならさっさと起きる!たく、何で私が面倒みなきゃならないの?」
体がけだるいため起きられず首を回すと、怒って部屋を出て行くメグが視界に入る。
「な・・・なにがあったんだ」
詳細は不明だが酒場に出入り禁止を受けたハジャは、フリックの提案でビクトールの部屋に転がり込んだ。