幻想水滸伝T

第一話 降ってきた109番目の宿星

解放軍のエンレードル城の中で、一番広く立派な一室。 そこに突如、ぼんやりとした光が現れ人型をかたどる。
いささか非常識な登場の仕方だが部屋の主人は慣れたものなのか、薄目でそれを確認した後、何も無かったかのように眠りにつく。
「フェイ・・・おきなさい、フェイ」
現れた人影。レックナートはフェイを起そうとするが、起きる気配は一切無い。
「明日、貴方の元にとても大きな輝きを抱いた者が訪れます。その者が貴方に与えるのは救いの光か、崩壊の闇か、私にもわかりません。」
「・・・留年するからいいもん」
起きる気配の無いフェイに見切りをつけたレックナートは、とりあえず言いたいことだけ言うことにしたらしい。
謎めいたフェイの寝言もおかまいなしである。
「その者が、光になるか闇になるかは貴方しだい。フェイ・・・悔い無き未来を掴み取りなさい」
言葉が終わり一息つくと、再び光の中に消えるレックナート。
部屋に残ったのは、夜特有の静寂とフェイだけだった。



「ビクトール、何が始まるのさ?」
「おぅ、フェイも来たのか。なんでも、ビッキーの奴が瞬きの紋章を使った召喚をするんだと。」
翌日屋上がに賑わっていることに気付いたフェイは、ビッキ−を中心にして取り巻いている人ごみの中にビクトールとフリックを見つけていた。
「たかが召喚の実験で・・・暇人が多いな」
「マッシュやサンチェスの幹部が有能だからな」
フリックの言葉に、三人とも苦い顔をして顔を見合わせる。
暇人に含まれている三人は、一応の城主に幹部なのだ。
多少の自覚はあるらしい。
「始まるみたいだぞ」
ビクトールのごり押しで最前列に陣取ると、ビッキ−が普段からは想像できない引き締まった顔つきで杖を握り締めていた。
観衆がごくりと息を飲み成り行きを見守っていると、ビッキ−の唇がゆっくりと開き言葉を発しようとする。
「え〜〜〜〜〜い!」
誰もがそれだけかよ!と突っ込みをいれたいなか見守っていると、てへへと笑いながらビッキ−が照れ笑いをする。
「しっぱい、しっぱい」
予想通りといえば予想通りの結果に、群集がやれやれと屋上を後にしだす。
「まあ・・・そうだろうな。瞬きの紋章だし」
「そうだな」
「二人だけで納得するな。俺に説明しろよ」
納得顔のフェイとフリックに、ビクトールは説明を求める。
「瞬きの紋章は呼び出すより、送り出す方が得意。で、そもそも召喚自体高等魔法・・・さらには、ビッキ−だから」
論理的な説明より、最後のビッキ−だからというのが、一番わかりやすかったのは気のせいではない。
結局、屋上に残ったのは、幹部の癖に暇人な三人とビッキ−と何処かで見ていたのかメグとテンガアール。
ふと空を見上げたフェイが、一番最初に気付いた。
「二人とも・・・あれ、なんだと思う?」
フェイが指差した空を、二人だけでなくビッキ−、メグ、テンガアールも見る。
六人の視線の先には小さな・・・遠いせいか、小さな火の玉がエンレードル城目掛けて飛んできているのが見えた。
「ソウルイーター!」
火の玉に危険を感じたのか、フェイがいきなりソウルイーターを発動させる。
「わりぃ。俺、急用を思い出して!」
「ヒックス、ちゃんと特訓してるかな!」
逃げ出したのは、ビクトールとテンガアール。反対に逃げ遅れたフリックとメグは、顔を引きつらせている。
フェイの口からは、逃げてもいいんだよとありがたい言葉が出たが、目が言葉を完全に裏切っていた。
・・・ビッキ−は召喚が成功したのが嬉しいのか、飛び跳ねてソウルイーターに気付いていない。
「冥府!」
屋上を黒の薄いヴェールで覆うと、衝突した火の玉を飲み込む。
最初に火の玉の火を飲み込むと、次は何故か現れた人影を飲み込み始めた。
「フェイ・・・俺には、人が飲み込まれてるように見えるが」
「人だな・・・」
「嫌だー!!問答無用で空を飛ばされ、闇に飲まれて死ぬなんて嫌だ−!!」
すでに人影は体半分を闇に飲まれていて、死に物狂いで抵抗している。
しかし、哀しいかな。真の紋章の力に抗えるわけもない。
「ねえ、ねえ!メグちゃん私できたんだ。召喚成功してたんだ」
「おかげでその人、死にそうだよ」
ついに最後の抵抗とばかりにもがいていた指先も、闇に飲まれる。
「名も知らぬ人よ・・・運が悪かったね」
言葉の前半部分を哀しそうに、後半を気軽に言うと、何も無かったかのようにフェイはさっさと引上げる。
メグとフリックはそれで良いのかと突っ込みたかったが、どうすることもできず人が飲み込まれた闇をみている。
すると、まるで唾でも吐くかのように、飲み込まれた人が闇から吐き出された。
理由はわからないがメグとフリックがほっとしたのも束の間、人影は吐き出されたまま屋上の高さから湖に落ちた。
度重なる衝撃映像を見たせいか、ついにフリックとメグは声無き悲鳴をあげ気を失った。



「あら・・・あの星見は300年後のことじゃない。間違えちゃった」
誰も居ない魔術師の島の自室で、レックナートはお茶をしながらつぶやいていた。
「フェイも聞いていなかったし、良いことにしましょう。しちゃいましょ」