long long stairs

第十一話 ユニゾン、更にその先へ


シンジがコンフォート17のマンションに帰ってきたのは、すでに日付が変わった頃。
体は当然疲れていて、何もかも忘れて寝てしまいたい欲求は確かにあった。
だがしかし、使徒戦でカヲルに助けられたと言う事実がシンジの足を当てもなく動かし街を彷徨わせていた。
煮詰まってしまうほどにその事を思い出して、自らを追い詰め続けていたのだ。

「くそっ!」

隠し切れない苛立ちを込めて玄関のドアに拳を叩きつける。
玄関の前に立つ今でも鮮明にあの時の事が思い出せ、悔しさと情けなさが心からにじみ出てきた。
誰も居ない廊下に聞こえるのは風の音だけ。
何時までのそうしているわけにもいかず、ノロノロとした動作でドアを開けるシンジ。

異変に気付いたのは、ドアを潜って直ぐだった。
リビングから伝わってくるこの家独特の気配の中に異質な気配がまぎれこんでいたのだ。
異質ではあるが覚えのある気配に足を速める。

「やあ、遅かったねシンジ君」

「渚・・・なぜお前がここにいる」

リビングに居たのは酔いつぶれているのか寝転がっているミサトと、毛布を持って立っているカヲルの二人。
カヲルは毛布をミサトに掛けてから、睨むような目つきを投げかけるシンジに答えた。

「簡潔に言えば、今回の使徒に対する作戦の為さ。詳しい説明は明日にでもミサトさんから説明があると思うよ」

「作戦だと」

「そう、完璧な連携をとる第七使徒イスラフェル。相手が二体ではなく二対で行動するのなら」

「こちらも二体ではなく二対で動くという事か」

ご明察とお褒めの言葉を送るカヲルだが、シンジは気に入らないと言う風に鼻をならした。
なにもわざわざ相手に合わせていく必要はない、要は生命の実を奪うことで全てが終わるのだ。

「とにかく今日はもう寝るといい。僕も疲れていてね、先に休ませてもらうよ」

「好きにすればいい」

「それじゃあそうさせてもらうけれど、今度から遅くなる時はミサトさんに連絡を入れた方が良い。酷く心配していたし、せっかくのご飯が冷めてしまう」

カヲルが指差したのはテーブルの上でラップをされた夕飯。
黙ってそれらを手に取りレンジに運び始めるシンジはとても小さな声だが「ああ」と答えた。
それはミサトというクッションを挟んでの会話だが、二人がまともに意思の疎通を果たした会話であった。
少し羨ましそうにシンジとミサトを見比べた後、カヲルは自らに用意された部屋へと足を向けた。

レンジのチーンと言う音を聞きながら薄目を開けたミサト。
玄関が開いた音からシンジが帰ってきたことを悟り、ずっと二人の会話に耳を立てていたのだ。
期限は一週間、友好的とは決して言えないものの、最初はこんなものだろうかと再び目を閉じた。





翌朝、朝ごはんが並ぶ前からシンジとカヲルは食卓に座らされていた。
二人の前には当然のようにミサトがおり、テーブルの上には極秘と打たれたイスラフェルの資料類がある。
そしてミサトの傍らの椅子には、何かを詰め込まれたダンボールが一つ。

「カヲル君にはあらかた説明してあるけれど、もう一度説明をします。昨日の撤退の際の攻撃で、イスラフェルの(甲)と(乙)は互いの情報を補い合い瞬時に修復してくると言う事がわかったわ」

撤退のところでシンジの顔が僅かに歪んだがミサトは見ないふりをした。

「となるととる手は一つ、分離中のイスラフェルのコアに対する二点同時の加重攻撃」

「つまり二体のエヴァをタイミングを完璧に合わせなければならない、その為に僕をここに?」

「そういうこと、仲良くしてねん」

ミサトがウィンクで話をしめると、互いに顔を向けたシンジとカヲル。
カヲルは特に問題ないように見えたが問題なのはシンジであった。
睨んではいないように見えてその心が間違いなくカヲルを睨みつけるようにしている。

何が気に入らないのかしらとミサトはカヲルが着てからを思い出した。
礼節は備わっているし、シンジと違ってそこにはこちらを暖かくしてくれるような微笑みつき。
実は女性職員の数人から写真を撮ってきて欲しいとの依頼まで受けてしまっている。
もはやアイドル扱いであった。

まさかカヲルがチヤホヤされるのが面白くないのかと一瞬ひらめいたが、これまた一瞬で消えた。
その様な正確なら真っ先にエヴァのパイロットである事を学校で自慢するだろう。

「これより有効な作戦が無い以上従ってもらいます。異論があるのならそれ以上の意見をもってするように」

「誰もやらないとは言ってませんが」

可愛くないわねと思いつつ、ミサトは椅子の上のダンボールをテーブルにのせて説明を続けた。

「今から二人にはこの服を着て生活をしてもらいます。寝食を共にしてお互いの行動を体内時計からあわせてもらうわ。当然他にも練習メニューはあるけどね」

ダンボールから取り出した物を見て、シンジばかりかカヲルも嫌そうな顔をしている。
その取り出したものとは男物のレオタード、そんなものを着て普段の生活ができようか。

「そんなものを斬る位なら裸でやりますよ」

「それはそれで好都合なんだけど」

「好都合?」

「あ、じゃなかった。とにかく、日本人は形から入るものなの。さっきも言ったでしょ、異論があるのならそれ以上の意見を持ってするようにって」

好都合と言う言葉にうさんくさげな目を向けるシンジとカヲル。
ミサトはさっそく足並みがそろい始めてるわねと喜びつつ、ダンボールの中のカメラを気にし始めた。
カヲルの写真はベストな斜め四十五度なら缶ビールをダースで、課題で出された服装なら一升瓶をダースで。
ちなみに裸は幻の銘酒であったりする。

「とりあえず手始めに朝食を作るところからね。私はなにも口出ししないからがんばって」

黙って席を立つと台所へと向かうシンジとカヲル。
レオタードを着るつもりはないが、一応作戦行動には従うようである。
一安心しつつも裸エプロンも高く売れそうだと考えているミサト。

十数分後、出来上がった代物にご飯だけは自分が作ると言い出す事になる。
子供を売り物にしようとした天罰なのだろうか。









シンジとカヲルの同居が始まって数日、空が赤く染まり影がこれでもかと伸びきる頃。
コンフォート17のエレベーターが二つ同時に動いていた。
一階ごとに数値を増やしていくエレベーターは、示し合わせたかのように同じ階に止まった。
それぞれのドアから現れたのは、アスカとトウジとケンスケの二人組み。

「なんや惣流やないけ」

「鈴原に相田、あんた達こそどうしたのよ」

「俺たちはほら、渚が学校休んでるから届け物だよ」

ケンスケが鞄から取り出したのは数枚のプリント。
本来なら委員長であるヒカリが届けるよう頼まれたものだが、カヲルに届けものなら私が行くと多数の意見が飛び、結局一番角の立たないトウジとケンスケにお鉢が回ってきたのだ。

「あんた達もか、私もシンジにね」

「あの二人が一緒に休むなんて、もしかして一緒のアルバイトだったりして」

「シンジはともかく、あの細っちょろい渚にアルバイトが務まらんやろ」

もはや自然とアルバイトと言う隠語が使えるまでになってしまった二人。
笑いながらもどうして惣流が付いてくるんだろうと思っており、それはアスカも同じであった。
そして同じドアの前で立ち止まり顔を見合わせて、どうして同じところで止まるのだと声をそろえた。

笑い話が本当だったのか、アスカが代表でインターホンを押すとしばらくしてゆっくりと開くドア。
その隙間から顔を覗かせた人物のことより、その人物の恰好にアスカは固まった。

「君は確か・・・シンジ君、お客さんだよ」

奥から出てきたシンジ。
こちらもカヲルと同じような、ある意味同じような恰好をしておりトウジとケンスケまでもが固まった。
同じ部屋に居る事ですら驚きなのに、その恰好とはトランクス一枚で何故かうっすら汗をかいているからだ。
この気持ち悪い、ある意味はまりすぎたシチュエーションにアスカが爆発した。

「この変態!!」

ズカズカと入り込んでシンジに一発食らわせると、居るであろう人物を探し出し奇襲した。

「保護者ならちゃんと道を踏み外さないように見てなさい!!」

「甘い!」

ビール片手に座っていたミサト目掛けた跳び蹴り。
声で奇襲を察したミサトは、まず片手でアスカの蹴りを掴み、いなした。
アスカもアスカでクルクル回る体を猫のようにしなやかに着地させ、次なる攻撃へ入ろうと動き出す。
シンジ達がケンスケとトウジに事情を説明し部屋に戻ってきても、まだその攻防は続いていた。
もっともミサトはその場から動かずにあしらい続けているだけだったが、ミサトはともかくとしてアスカは何処でそんな技術を身につけてきたのだろうか。





アスカとミサトの攻防が終わって十分後、詳しくはいえないが必要な訓練だと聞かされたアスカ。

「シンジ、私は信じてたわよ!」

アスカの手前ジャージを着てきたシンジに、ものの見事に言い切った。
うっすら額に汗をかきつつ右手を握り締めて力いっぱい振り上げている。
言葉では熱そうだが、周りは一切しらけていた。
アレだけ一人で騒いだ後では説得力も皆無だろう。

「はいはい、アスカちゃんの誤解も解けたところで練習再開して」

冷たいジュースで涼をとっていたシンジとカヲルは、ゆっくりと立ち上がると練習の舞台へと立つ。
舞台であるマットには幾つもの赤い円があり、音楽にあわせて光った円をタイミングを合わせて踏むと言うもの。
二人のリズムを効率よくあわせるためにミサトが何処からか借りてきた代物である。

「それでミサトさん、訓練の成果っちゅーのは出とるんですか?」

「まあ、見てればわかるわ」

ミサトがラジカセのスタートボタンを押すと始まる音楽。
シンジとカヲルが同時に動き始めた。
まずは右手、その次は左足と全く々タイミングで赤く光っていく円を両手両足で踏んでいく。
そのタイミングと仕草が余りにも似通いすぎて、まるで二人の間に鏡でも置いてあるかのようである。

アスカたちは詳しい作戦内容を聞かされていないが、タイミングを合わせると言う事だけならこれで十分に思えた。
しかし淡々とすすめていくシンジとカヲルを見るミサトの目は渋く目を細めている。

「なによ、よくわかんないけど上手くいってるんじゃないの?」

「まあ、見た目はね」

ミサトの言葉に首を傾げるアスカ達。
これが一番解りやすいだろうかと、ミサトがまだふたを開けていない缶ビールをシンジとカヲルの方に投げた。
丁度二人の間に投げ込まれた缶ビール。
それに二人が反応するまでは同時だったが、先に手を出したのはシンジだった。
缶ビールに触れると同時に弾き、ミサトの手元にもどってくる。

「っとまあ、問題なのよねぇ」

少し深刻そうに呟くと、手の中に戻ってきた缶ビールをぷしゅっと開ける。

「受けと攻めの性格的な問題もあるでしょうけど。シンジ君、貴方まだカヲル君の先に先に動こうとしてるわよ。もう少し心を落ち着かせなさい、これは競争じゃなくて協力なのよ」

「俺は落ち着いている。それに俺が先に出しているんじゃない、カヲルが遅いんだ」

「そう思うのならカヲル君に合わせなさい。遅い人が速い人に合わせるのは難しいけれど、その逆は容易い。解るでしょ?」

ミサトの言い分はもっともである、もっともであるが受け入れられないと言った顔をしているシンジがいた。
悪い方にではあるが、こんなに表情を出すようになったのはカヲルが来てからである。
そこにどんな理由があるのだろうか。
自分を落ち着かせるように一呼吸おいたシンジが皆に背を向けて部屋を出て行こうとする。

「シンジ、何処行くの?」

「少し、頭を冷やしてくる」

「シンジ君、貴方が何から逃げ出そうとしてるのか解らないけど」

独り言のように呟くミサト。

「全てを忘れてゼロに戻しても問題がなくなるわけじゃないわよ」

逃げる、そういった表現にシンジが走り出した。
荒々しく開かれた玄関が荒々しく閉じ、リビングに残ったのは少しばかりの静寂。
すぐさまアスカもシンジを追おうとしたがそこに立ちふさがる者が居た。
何も両手を広げているわけではないが、その意思は確実にアスカに伝わっていた。

「僕が行こう」

すぐさま「なんであんたが」と言おうとしたアスカだが、カヲルが続けた言葉に完璧に止められてしまった。

「シンジ君を理解してあげられるのは、同じチルドレンである僕だけだ」









何処か行く当てがあって飛び出したわけじゃない。
百メートルも走らないうちに我に返ったシンジは、逃げると表現された自らの行動を思い返した。
ネルフで学校でカヲルを避け、使徒との戦いではカヲルより先に使徒を倒そうとした。
本当に逃げようとしていたのか、自分は闘っていたのではないのか。
少なくとも自分は、レイの・・・

一瞬の立ちくらみ、目の前がぐらつき足を一歩踏み出した。
強すぎる日差しが原因のようで、思考を一時中断させシンジの足が向かったのはコンビニであった。
流れ落ちる汗を腕で拭うとジュースのコーナーからコーラを一本とってくる。

「135円になります」

淡々とした声でレジの店員から値段を告げられ、そこで気付いた。
急に飛び出したことで財布を持ってきていないのだ。
そっと横から差し出された手が店員へとお金を渡す、カヲルだ。

「らしくないミスはこれで何度目かな」

呆れた口調に答える事無くコンビニを出て行くシンジ。
礼も言わずに去ったシンジに戸惑っている店員から釣りを貰うと追いかける。

付き合いは短くとも、カヲルはシンジの事を良く知っているつもりだ。
何度も、何度も飽きる事無くシンジの戦いの記録を繰り返して見てきた。
冷静な判断力に迅速な行動力、そして進化。
まるで闘う為に生まれてきたような精気あふれる存在、それがカヲルの中のシンジであった。

「いつまでついて来るつもりだ」

並ぶわけではなくずっと後ろをついてくるカヲルに根負けしたシンジが振り返る。
その顔に映るのはやはり、警戒。

「君が逃げるのを止めるまでさ」

「俺は逃げてなどいない!」

「いや、君は逃げている。僕と言うチルドレンから・・・資格者と言い換えても良い」

資格者と言う言葉に身を振るわせたシンジを見て、場所を変えようかと近くの公園へとカヲルが誘った。





人気のない場所を選んでカヲルとシンジは向き合った。
カヲルは真っ直ぐシンジを見ているものの、やはりシンジは何処か視線をそらしている。
それこそが逃げている証拠でもあった。

「君がずっとそう思ってたように、確かに僕は資格者であり、いつか君とは袂を分かつ存在だ。でもそれは、いつかであって今じゃない」

僅かだがシンジの目がカヲルをとらえた。

「そして、数日後使徒に勝たなければその日も永遠にやってこない」

「どういう、事だ」

「約束された日が来ない限り、僕たちは敵じゃないという事さ」

使徒に勝たなければ明日はなく、明日がなければ約束の日が訪れる事はない。
共通の敵を倒す同盟と言えば聞こえはいいが、あまりにも大胆すぎる言葉であった。
その後は確実に敵対すると言う宣言でもあるからだ。

それでもシンジの内心は揺らいでいた。
どんなに頭を捻っても、二対でお互いを完璧に補いあう今回の使徒に一人で勝つ事は不可能だ。
コンマ単位のズレも許されない二つのコアへの攻撃、それを成功させるにはカヲルの手を借りなければならない。
いずれ袂を分かとうと、今は敵ではないという言葉。

「少し、時間をくれ・・・三十分でいい」

ゆっくりと頷きコンフォート17へと向かうカヲル。
背中越しではあったもののシンジの目はカヲルをしっかりと見つめていた。
やがてその背が見えなくなると、フラフラと近くのベンチへとコシを下ろす。

ずっと忘れたままでいたコーラのペットボトルを開けて、喉に流し込む。
少しぬるくなっていたが、乾いた喉には十分だった。
一息ついて右手を見つめると、その手の中に三つの赤い球が現れる。
生命の実、自分が使徒と戦う理由・・・それを握る右手は先日屋上でカヲルの右手を拒否した手。

「裏切りを約束された友、か」

ポツリと呟いたシンジの腰はまだ動かない。









カヲルが一人で戻ってきた事に、ミサトはあからさまな落胆を見せた。

「何がシンジを理解できるのは自分だけよ、結局一人で戻ってきてるじゃない」

先ほどの言葉によほどショックを受けていたのか、アスカの言葉に優越と嫌味が含まれる。
アスカにしてみればカヲルの言葉などただの思い上がりのように聞こえてのだろう。
だが、対するカヲルはアスカを見て微笑んだ。

「シンジ君は僕なんか足元にも及ばないほどに強い。必ず彼なりの答を持って戻ってくるさ」

シンジの何もかもを知っているという態度がアスカを逆なでしていく。
隠しもせずカヲルを睨みつけるアスカの雰囲気を察してミサトが二人の間に割り込んだ。

「まあまあ、ちょっとだけ待ってみようじゃない。それで戻ってこなければ、その時はアスカちゃんお願いね」

「待つ必要なんかないわ。シンジは私、が」

言葉の途中で玄関のドアが開いた音が聞こえ、続くはずの言葉が続かなかった。
数回の足音の後リビングへとその姿を現したシンジ。
まず一番初めにカヲルを見て僅かにだが口の端をあげて笑い、カヲルもそれに答えた。

アスカの中で何かが崩れていく。

「渚、俺についてこい。必至になって無我夢中でついてこい。俺は立ち止まらないが後ろぐらい振り向いてやる」

「シンジ君のアドバンテージは二歩。すぐに追いついてみせるさ」

「その時はまた数歩俺が勝つ」

周りが全く見えてないように練習用のマットの上にあがる二人。
ポカンとしていたミサトが慌ててラジカセのスタートボタンを押すと、緩やかに、やがて素早く動き出す二人。
まだ僅かにシンジが速いもののカヲルが直ぐに追いつき、シンジがまた回転を速めた。
競い合うように、互いが高めあうように。

シンジとカヲルの間で一体どんな言葉が交わされたのかを知るすべは、ミサトにはない。
唯一つ解ったのは、カヲルの言ったとおりシンジは自分なりの方法を見つけ出し戻ってきた事だ。
相手にレベルを合わせるのではなく、相手を高め自分は更に先へと進んでいく。
心理的にもそれは最上級の答えであった。

「これはいけるわ」

空き缶を握り締めるほどに力を込めたミサト。

「何やようわからんけど、渚の奴あっさりシンジと通じ合いよったな」

「動きがそろってるなんてもんじゃない。これぞまさにユニゾン」

全く状況についていけていなかったトウジとケンスケですら、二人の間にできた絆のような何かを感じている。
アスカにしてみればそれを否定したい気持ちで一杯なのに認めるしかなかった。
悔しさと嫉妬様々な感情を抱え、誰にも気付かれる事なく出て行った。









そして決戦の日が訪れる。
N2爆雷のダメージを修復させて活動を再開した使徒が、ゆっくりと第三新東京市へと歩を進めていく。
ネルフもUNもまだ手出しをせずに、ただ使徒の歩みを見守るだけである。
使徒の現在地から数キロ先の一点にあるエヴァの射出口、決戦の場はそこであった。

「今度は抜かりないどころかお釣りがくるわよ。今のあの二人ならあの程度の使徒には絶対に負けないわ」

「大した自信ね」

「直ぐに解るわ。あの二人が見せてくれるユニゾンの更にその先を」

第七使徒イスラフェルのあの特異能力は確かに凄い。
だが分裂し互いを補完して、二体が全く同じ動きをするだけで攻撃、防御共に第三使徒サキエルにさえ及ばない。
最初はこちらもそれにあわせて同じ動きをする二体のエヴァで対抗するつもりだった。
しかし、あれから互いを高めるように練習しだした二人はイスラフェルを確かに超えたのだ。

「いいわね二人とも。音楽が始まると同時にATフィールドを展開、後は貴方達に任せるわ」

あまりのアバウトなミサトの言葉にリツコやオペレーターたちは驚き、

『了解。渚、少しでも遅れたら使徒は俺が倒す』

『遅れやしないさ。僅かな誤差もないほどに付いていってみせるよ』

二人の言葉に更に驚かされた。

「ミ、ミサト、本当に大丈夫なの。一週間前と何も変わってないわよ」

流石に不味いと思ったリツコが問いかけると、ミサトが不敵な笑みを浮かべた。
絶対的な自信のあらわれなのだが、事情を詳しく知らないものからすれば開き直りの自棄に見えただろう。

「目標、作戦開始ポイントに到達」

「外部電源パージ、発進」

静かに告げられ射出されていくエヴァンゲリオン。
誰もが不安を胸に正面のモニターに映る使徒とエヴァを見比べていた。





二体のエヴァの中に流れる緩やかに心鎮める音楽。
射出されるままに飛び上がった二体のエヴァが無重力状態で一瞬止まる。
まず動いたのは純白のエヴァ。
複数の空圧弾がイスラフェルの周りに着弾して土煙と言う自然の煙幕を巻き上げていく。

空圧弾の発射により二体のエヴァに誤差が生まれた。
先に地面に着地したのは紫のエヴァ。
着地するのと同時にイスラフェルを光の鞭で切り裂き、素早く離脱していく。
イスラフェルからすればすぐさま攻撃に移りたい所だろうが、分離へのタイムラグがあった。
今度は純白のエヴァが舞い降り、二体のイスラフェルの顔にに膝蹴りをお見舞いしてからシンジと合流した。

一つの思考を持ち、尚且つそれぞれが役割を持って動く二体のエヴァ。
それこそがユニゾンの更に先であり、完璧に使徒を翻弄している。
発令所でミサトが「よし」と呟き、スタッフからも不安が消えた。

ようやく二対への分離を済まし、凹んだ顔面を修復し終えたイスラフェル。
お返しとばかりに仮面から光を放ち二体のエヴァに次々と着弾していく。
ペースを取り戻そうとするかのように休む事無く光を打ち込んでいくが、一陣の風が爆煙を押し流した。
爆煙の向こうから現れた二体のエヴァは全くの無傷、その場を動いてすらいなかった。
二体のエヴァが同時に右手を挙げて手首をクィクィと曲げて挑発する。

その仕草にはもはや発令所では苦笑を浮かべる者までいた。

挑発の意味が理解できているのか、飛び上がりその手を鋭利な刃物と化して斬りかかってくる。
だがまたしてもエヴァの方が速かった。
イスラフェルの一撃を半身でかわしつつ、紫のエヴァがパイルをバットのようにしてイスラフェルを打ち上げ、
純白のエヴァが両の手に生成した特大の空圧弾を直接叩き込んだ。
吹き飛びながらも、もはや二体でいる利点を感じなくなったのか一体に戻ろうとしたイスラフェル。
その隙を二体のエヴァが見逃すはずがなかった。

紫色のエヴァが跳び上がり、純白のエヴァがイスラフェルの着地地点へと空圧弾を打ち込んだ。
衝撃と足場が悪くなっていた事でバランスを崩すも、なんとか合体は果たしたイスラフェル。
だがもう遅い、奇麗に並んだ二つのコアに映る影。
紫色のエヴァの足が、二つのコアを同時にとらえたドロップキック。
地面、そして山肌を削って行くほどの勢で、二つのコアに同じ亀裂が走り発光していった。
そして、爆発。





吹き荒れる風と舞い上がる炎が収まった頃、純白のエヴァの下に降りてくる紫色のエヴァ。
イスラフェルの元から離脱する時に爆風でさらに上へと押し上げられたのだろう。
着地の後にクレーターが形成された。

すでに電源が切れていたのか、着地して過ぐに糸が切れたように崩れ落ちたエヴァからシンジが降りてくる。
そこに待ち構えるのはカヲルだった。
勝利を喜びあう言葉よりも先にシンジへとその右手を差し出した。

「屋上の続きだよ」

僅かに笑った後、シンジはその手の中の物をカヲルへと投げて渡した。
日の光を受けて光るそれは生命の実。

「いいのかい?」

「友好の証とでも思っておけ。それにそんな弱い生命の実ぐらいで俺とお前の差は縮まらないさ」

どちらが本心なのか、迎えに来たトレーラーに向かって歩き出すシンジ。
トレーラーから身を乗り出して手をふっているミサトに片手を挙げると、思い出したように振り向き告げた。

「精々置いていかれない様に気をつけるんだな、カヲル」