牽制球:クリスマスのすごしかた
雨とは違い音もなく降る雪
たまに誰かが『しんしんと』なんて付けるがまあいいんじゃないの
ホワイトクリスマスか・・
俺には全く関係ないけどな!
まあ落ち着け俺
こんなこと思っていては『クリスチャンでもないくせに!!』とのたまう人と同類にみられてしまう
「ほら、どうせ彼女いないのにはかわりないんだから手動かす」
「そこがそもそもおかしい!」
そうだよ、なんで琥珀が言い出したクリスマスパーティなのに俺が会場(俺ん家)の飾り付けから料理の準備までやって
るんだよ
おまけに琥珀はこたつでみかん食うだけでなにもしやがらねえ
さらになんだよこの料理表の量の多さは一体何人来るんだよ!
「優希に双葉でしょ、あと野球部の馬鹿たちに恭子ちゃんと春奈ちゃん・・せいぜい20人いるかいないかでしょ」
お前は20人をせいぜいと言うのか
このまま料理に細工してもいいけど、野球部馬鹿と琥珀以外もいるし
優希あたりが特にアレだしな
ピンポーーーン
お?集合時間にはまだ早いし誰だ?
玄関にいたのは紫暮さんと優希・・ただ優希は紫暮さんに背負われてたけど
「琥珀さんに頼まれて手伝いにきたの、鋼君一人じゃ大変でしょ」
「俺には紫暮さんのほうが大変そうに見えるけど」
たぶん寒さのあまり優希が倒れたんだろう
ホワイトクリスマスからレッドクリスマスが局地的に発生してるなこりゃ
結局紫暮さんは優希の看病にまわって、手伝いにならなかった
琥珀がニヤリと笑ったから多分狙ってやったんだろな
「っと言うわけでクリスマスといえばパーティ、パーティといえば」
「「「「「「「「隠し芸大会―!!」」」」」」」」
多分それって正月じゃと突っ込んだ方が少数派だろう
無難にパーティが始まり、誰も問題を起すことなく普通だったのだが琥珀が爆弾投下しやがった
絶対どいつも俺に絡んだ芸やるつもりだ!
「一番青嶋優希」
あれ?なんだ一番手は優希かちょっとほっとし
「吐血しまぁーす」
ちょっと待て!!
芸じゃない!芸じゃないぞそれは
ゴバァ
俺が止めるまもなく血の海が微妙な速さでひろがっていく
さすがに回りも沈も
「いきなり出ました優希の十八番[吐血]さー評価のほどはどうだー!!」
しやがらねーよあの馬鹿、倒れた優希無視しやがった
審査員も微妙だな・・キャプテンに紫暮さんに茉凛さん
茉凛さんがそこにいて違和感がないのもなんかやだな
まあいい、琥珀とキャプテンが参加しないだけでも俺への被害は半減するだろう
「甘い!甘すぎる!!日常に披露していては“隠し”芸ではないのだ!!」
言ってることは正しいけど嫌な予感が
おもむろにボールとバットをどこからか取り出すキャプテン
「ゼロ距離射的」
ガキン
「のぉあくしゃー!」
ゼロ距離から俺に向かって打たれたボールを反射的にとり反射的にキャプテンに返球、もちろんゼロ距離だ
ちょっと手が痛いがキャプテンの顔面にボールがめり込んでおあいこだ
「普段見せない超反射神経・・これこそげブギャ」
とりあえずキャプテンに止めを刺す
見本を見せることは悪いことじゃないなうん、でも見本は自分がみせよーな
「よーし、趣旨が理解できたところで次」
気絶した優希は春奈さんが安全地帯へ、キャプテンはもちろん放置だ
ところで・・いつのまに俺は先輩方に両腕を固められてますか?
以前にもこんなことがあったような
「はっはっは気にするな鋼」
「そうそう今日はボールの変わりにナイフが飛んでくるだけだから」
「痛みが鈍重なものから鋭くなるだけだ」
ちょっとまて素人がナイフ投げなんかするな
直撃したらいくらなんでも死ぬぞ!
「鋼の力強いからしっかりしばっとけー」
何時の間にか運ばれたはりつけの大道具に両腕両足が縛られ俺の命はまさに風前の灯
って壊れてる場合じゃねえ!
「準備はいいか鋼、ナイフ行くぞー」
よくないって言ったら嬉々として投げるんだろうって予測できる自分が悲しい
嗚呼・・投げる前に部屋が薄暗くなりドラムの音が響く
ってちょっとまて、ナイフ投げは普通暗くしねえだろ
ドン
ドラムが終わった瞬間右頬のあたりにトスっと何かが刺さる音がする
え〜っと、なんか一瞬痛みが走ったんですけど
「切れてる!切れてるって!!」
「二投目いくぞー」
無視かい!
誰か止めろよ、なんで全員心配顔じゃなくて何かを期待した目でみてるんだよ!!
ドン
「ぉらわー!!」
パシッ
全くの感でナイフが来ると思った瞬間力技で腕の拘束を引きちぎり白羽取り
感だったけど・・助かった、ナイフがあったのはちょうど顔のまんなか
こんだけ危なかったんだ、ようやく解放さ
「ナイフ投げは失敗!次の芸いってみよう」
だから何で平然としてんだよ!もっと普通の芸はないのかよ!
さっきから俺ばっかが危険じゃねえか
「さっきから文句ばっかうっさいわね〜、普通って何よ」
「最低でも危険は無いぞ」
「そんなんじゃつまらないじゃない」
つまらないの一言で俺の命を刺し出すな!!
もっと普通に手品とからしいことでもいいだろ
「手品ね〜、一つあるけど」
琥珀が隠し芸の表らしき紙を見て唸る
あるならそれで終わりにしろ!
このままじゃ俺の命がいくつあってもたりん
「完全密閉の箱に鋼を入れてそれを海に沈めて大脱出なんだけど」
だからなんで俺がからんで来るんだよ!
ちょっとその表見せてみろ
・ 鋼による猛獣狩り
・ 鋼による親指倒立そのまま腕スクワット
・ 鋼による綱なしバンジー
以下略
無言で隠し芸の表を破る
「あー!」と琥珀が叫ぶが無視だ、胸糞悪い
そのまま無言で俺は家を出た
以前茉凛さんを置いてきぼりにした公園のブランコにすわる
とりあえず飛び出したのはいいけど結局戻らなきゃいかんのが間抜けだ
薄着のまんまだし財布も持ってきてない
「寒・・風邪ひいたらやばいな」
俺が風邪ひいたら誰も家事できんし
こんな時でも家事のことかんがえる主夫の性がちょっとアレだ
うつむいているとふいに暖かい何かに首元が包まれる・・マフラー?
「風邪ひきますよ鋼君」
「紫暮さん」
とりあえず寒いからしっかりとマフラーを首に巻く・・それでも寒いけど
なんてーか、居心地悪いな紫暮さんなにしにきたんだろ
「嫌でした?」
「別にふざけるのは構いませんよ、度を越さなければ」
巻き込まれるのは慣れてるけど・・不本意だが
からまれるのは嫌だ、うっとおしいし
「今日はクリスマスですよね」
「まぁ・・世間はそうでしょうね」
俺はいつもに増して不幸だけど
最近は力技じゃないとついていけないしな
「いいことありました?」
「見てわかりませんか」
言いたいのかさっぱり、なんか言動が不明瞭だ
何が言いたいんですかと顔を上げた瞬間近づいた紫暮さんの顔、そして頬に触れるくちびる
何が起こったかわからずほうけてしまう
「これぐらいいいことはあってもいいんじゃないかな」
落ち着いたら戻ってくださいねと台詞を残して紫暮さんは俺の家の方へかけていく
ぼーっと10分ぐらいしていると何かがおかしいことに気付く
「出て来いお前ら」
あてずっぽうにそう言う、全くの感だが出て来る出て来るぞろぞろと
琥珀にキャプテンにあと馬鹿(野球部)ども
まあ仕組まれた悪戯ってのにも慣れたから何がどうなってるのかは大体わかる
「なあ今日ってクリスマスだよな」
「クリスマスって聖なる日よね、犯罪はよくないわよ鋼」
「そうだぞ、聖なる日にそんな泣いた子供が気絶するような眼をするな」
なんだか言い訳をしているみたいだが今の俺にはどんな言葉もとどかない
そもそも聞く気ないし
「俺にできることはこれだけだ」
多分このときの俺の顔は今までに無いくらい歪んでんたんだろう琥珀ですら顔が引きつってた
そして俺はクリスマスプレゼント(拳)を俺の気が済むまで全員に振舞った
さすがに琥珀は殴れずその分キャプテンの数が増えたけどな
後日春奈さんに聞いたんだが
俺と琥珀とキャプテン以外は全員酔っていたらしい
琥珀とキャプテンが素でああなのはいいが紫暮さんは綺麗さっぱり記憶がないそうだ