第七球:風呂の湯でも飲んどれ
「つめたーい!!」
夕飯が終わったのはとうに2時間も前、うだうだと茉凛さんとテレビを見ていると風呂場から聞こえてくる琥珀の大声
なんだろうな〜俺もとうとう未来が見えるようになったのか時が見えるよ
目を閉じるとほら琥珀に殴られて気を失う俺が・・なんだいつものことじゃん
バキッ
やっぱり殴られた、殴られる直前に見た琥珀はバスタオルを体に巻きつけてるだけ
茉凛さん・・これから気絶する人に追い討ちはやめような
「まったく、水風呂だっただけで人殴るなよな」
どうやら給湯器が壊れたらしくお湯が出なくなってたらしく、今はどっかにもらい湯にいくところ
しかしお湯が出ないのは俺のせいじゃないだろ、何で殴られにゃいかんのだ・・
「うじうじとうるさいわね、殴っちゃったもんは仕方ないでしょ」
仕方ないで済ますかこのボケ娘は!
世の中仕方ないで済む事の方が少ないことを教えてやろうか
なんて考えてたらいつの間にか首に琥珀の両手が・・・
「夜はいいわよねぇ、月も綺麗で」
「台詞と行動が間違ってるぞ」
まだまだ悪態はつきたいものの段々と締められる首にはかなわん
人間あきらめが肝心死にたくないし、話題転換
「ところでどこにもらい湯にいくんですか?」
もともともらい湯を言い出したのは茉凛さん
あてがあるのかないのか・・茉凛さんの交友関係なんて知らないしな
「ん〜双葉ちゃんのところ、あそこはお風呂も広いし」
それって茉凛さんのじゃなくて俺らの交友関係じゃないか
下手に変なところに連れてかれても困るしこれはこれで安心だ、さっさといくべ
何度か来た事はあるものの双葉の家は毎回驚かされる
門から館まで車で移動することよりも、勝手に入るとスナイパーに撃たれる事が
初めて来た時はよく弾丸をかわした俺
「っと、色々あったから風呂かしてくれ」
少し考えた後なぜか双葉が上目使いに本当にいいのかと聞いてくるが即答でイエスと言う
門前ならまだしも風呂のなかまでは銃で撃たれることはあるまい
金持ちの例にもれず双葉の家は風呂が複数あるらしく琥珀と茉凛さんとは廊下で別れることになった
「お風呂が広いからって泳がないでよ」
そういうことはお前の横ではしゃいでいる茉凛さんに言ってくれ
確実に泳ごうとするはずだ
「ここがそうだから」
しばらく進むとなんかこれから泊まる部屋を紹介されたみたいに眼前に豪華なドアがある
まあ金持ちってそんなもんだろう、がちゃっとドアを開ける
目の前には・・一列に並んだメイドさんたち
「え〜っと、集団覗きですか?」
嫌〜な予感がしたので軽いジャブ
「お召し物をお脱ぎするのをお手伝いいたします」
「断る!」
「そうおっしゃらずに」
やっぱり帰ってきたよ右ストレート!
なんだよ両手をワキワキさせながら近寄るな、よだれをすするな!!
なんで風呂にこんなのがいるんだよ!
ドスッ×5
全員を眠らせてドアの外に放り出してきらびやかに汗を拭き一言
「排除完了」
敵がいなくなったところで安心して服を脱ぎ風呂への扉をガラリ、視界は湯煙で真っ白だ
湯につかる前に体を洗おうと何とか見つけた蛇口のところのイスに座る
「背中お流しいたします」
「頭をあらわせていただきます」
「(以下略)」
「どっからわいて出た!!」
振り返ればさっきたたき出したメイドが五人、そこにあった桶で前は隠すが形成は不利だ
嗚呼・・あの福山雅治並の速さでワキワキさせてる両手が怖い
右側の入り口方面は囲まれたか・・のこるは左手の窓の鍵を開けダイブ!
「とぉ!」
哀しい漢の性かそんな掛け声とともに飛び出した先は何故か森
森を桶一つで駆け抜ける俺・・・嗚呼穴があったら双葉を埋めたい
敵が後方に確認できなくなったところで現状をどう打開すべきか考える
一番いいのは双葉に連絡なのでが携帯は脱衣所、駄目だ
そなると今風呂であろう琥珀か茉凛さんに言付けを頼もう・・このままじゃ問答無用でつかまってしまう
「あ〜やっぱり広いお風呂はいいわねぇ〜」
かすかに聞こえてくる琥珀の声、いやこれは救いの声だ!
少々進んだ前方に湯気のでている窓を発見、おそらく琥珀が入っている風呂だ
琥珀のことだ、近づいただけで気配を察知するに違いない
「何やってんの鋼」
ほらビンゴ!
「色々あって双葉に連絡とってくれ」
いいわよとあっさりのたまった琥珀・・期待しているわけじゃないけど最悪の未来が頭をよぎる
「きゃー!覗きよー!!」
やっぱりかい!
そうすると思ったよコンチクショー!
だからって双葉の家でそう言うことをするな!!本気で撃たれるんだぞ!!
ほら来た黒服どもが!!
「ぬおおおおお!!」
死んでたまるか!生きてやる!!
何かあったら俺は俺の家系を末代までたたるぞコラ!!
だがどうするいくら俺でもハジキもった黒服相手に勝利は難しいぞ
「えっ」
「あら?」
弾が当たらないように森を突き進んでいたのだが森の中の道に行き当たった先にいた少女
硬直する桶以外全裸の俺と少女、いいよ無理しなくて俺が君だったらそうするから
「きゃぁぁぁーーー!!」
嗚呼もうこんなんばっか!!
どうする?どうする?どんどん黒服が近づいてるぞ!
不幸な事故と思ってくれ少女よ、右手で少女に謝りつつ左手で少女の手を握り走り出す
思考と行動が矛盾どころか色々やってるよ!
「今のはお嬢様の声」
「まさかさらわれたのか!!」
聞こえない!聞こえないもん黒服の声なんて!
覗き転じて誘拐犯、そろそろ本気で何とかしないと現場の判断で銃殺されてしまう!
「これはね、違うんだよ。裸だけど誘拐犯じゃなくて覗きもしてないし」
「とうとう落ちるところまで落ちたわね鋼!」
一生懸命少女に弁解にならない弁解をしていると前方に現れた琥珀
そう仕向けた本人が言うんじゃねぇー!!
「実の姉の風呂を覗くだけではあき足らず、全裸で少女に迫り後誘拐なんて・・」
くっと涙を拭くしぐさ・・演技だろうけど
「姉としての最後の仕事よ、冥土に送ってあげるわ」
スチャッと黒服にでも借りたんだろう銃を構える琥珀
冥土はさっき色々怖かったんで地獄にしてもらえませんかね
ドンっと火を吹いた琥珀の銃は見事俺の左胸に真っ赤な華を咲かせた・・痛かったけどな
「はーちゃん大丈夫?」
「ペイント弾って言っても発射の土台は本物の銃だぞ」
双葉の心配どおり大丈夫ではない、しっかりと左胸にあざができている
あんな馬鹿みたいな芝居で場が納まるわけもなく、最後は結局双葉が出てきて誤解が解けた
琥珀は意味もなく悲劇の姉の気分に酔いたかっただけだろう
「それよりあの女の子って誰だったんだ?」
「えっと妹の四葉、ショックで気絶してるよ」
双葉の答えにふ〜んとだけかえしておく
そりゃいきなり裸の男が現れてしかも銃で撃てれたらショックだろうさ・・二重の意味で
兄経由とはいえ琥珀に関わったんだきっぱりと恨むなら俺でなく琥珀を恨んでくれ
「大丈夫かな?・・でも・・思い込みが・・」
双葉がぶつぶつ言っていると勢いよくドアが開いた
「鋼様、お話はお義姉様から聞きましたわ!私をさらう全裸の誘拐犯、それを阻止するために銃を片手に阻止し私を助
け出す鋼様・・感激ですわ―!!」
現れたのは世迷いごとを言うさっきの少女とその後ろに「お義姉様」のところで自己主張している琥珀
わけがわからず双葉を見るが・・あかん完全に顔が引きつってる
「思い込み」っていうか・・・琥珀に洗脳されたんじゃねぇか?
「これはもう運命!さあ鋼様、私と一緒に夫婦という明日を踏み出すしかありませんわ」
疲れる・・風呂もらいにきただけなのになんだこの疲労感は
何もかも投げだしたいが最後の気力を振り絞り、四葉の両肩に手をおく
「眼をつぶれ四葉」
「はい・・」
キラキラと煌いている眼を閉じさせると右手を四葉の肩から離し
狙いを定め拳を突き出す
ドスッ
「双葉・・再洗脳よろしく」
それだけ言うとグッタリとした四葉を双葉に任せふらふらと部屋を出て行く
疲れた・・なんてーか疲れた
誰か忘れてる気がするけどもういいよ、泣いちゃえ