Get Two

第一球:色々な人達

 

コンコン、コンコン

狐でもなければ風邪でもない目の前のドアを叩いている、ノックとも言う

ノックと言えばやっぱ甲高くカキーンだよな・・わかってくれとは言わないけど

 

「琥珀起きろ、朝飯できてるぞ!」

 

三度、四度とノックをするが返事はない

毎朝の事だ予測と言うよりは経験談・・姉の琥珀は布団のなかで夢うつつに

「あと五分・・」

とのたまっているのだろう、だがそう言って5分で起きる者が世界で何人いるのか

そんな考えは一瞬ではるか彼方においやり、何時ものように部屋に踏み込み布団を剥ぐ

 

「起きろバカタレ!」

 

互いに硬直・・なんで何時も行動してから思い出すのか、外食に行ってサラダのマヨネー

ズを抜いてもらうことしかりど真ん中ストレートを振らずに見送り三振しかり

琥珀が薄着で寝ていることしかり

 

「このバカ鋼―!!」

 

嗚呼何時ものように何時もの鉄拳が飛んでくる

名前のごとく体が鋼にならないものか・・これも何時もの思考パターン

味噌汁が冷めないうちに復活できることを期待しつつ意識を手放した

 

 

 

「あらあらはーちゃんったらお寝坊さんね」

 

意識を取り戻した俺の顔を覗き込んでいるのは茉凛さん、一応母親

何処から持ってきたのかネコじゃらしで俺の顔をコチョコチョと

 

「楽しいか?」

 

「うん、とっても!!」

 

もはや何も言うまい

うざったいネコじゃらしを跳ね除け時計を確認・・気を失って5分弱今日は少し長めだ

 

「ご飯食べ終わったならテレビでも見てろ」

 

「は〜い」

 

不満そうではあるが素直に従ってく・・・

茉凛さんがドアを出たところでイーだをしている

あんたいったい幾つだ

 

 

居間では茉凛さんが琥珀に膝枕されながらすくすくぽんを見ていた

どこから突っ込んでやろう突込みどころ満載だ

 

「鋼もうご飯ないよぉ〜、あたしが来た時にはもうあたしの分しかなかったし」

 

逆に琥珀に突っ込まれた、むしろ斬られた

三合も炊いたんだぞ昨日の夜にセットしておいて、朝6時に起きておかず作って

朝ご飯中に茉凛さんから目を離した俺が悪いのか

ってなんで琥珀の分が残ってて俺のを残しておかない茉凛さん

 

「だってはーちゃん朝ご飯用意していなくなったからいらないのかなっておもったんだもん」

 

まだ何も言ってないのに・・確信犯か?

琥珀が半合食べても残り二合と半分・・・いくらなんでも食い過ぎだろう

しょうがない、早めに学校行って途中のコンビニでパンでも

 

「あ〜ちょっと鋼、洗濯と洗い物ちゃんとやってから朝連いきなさいよ」

 

「はーちゃんおねがいね〜」

 

鬼かお前等

朝連の前に疲れてどうする、そもそも仕事しろよ専業主婦すくすくぽんみてる場合じゃねえ

あ〜朝からきれそうだ・・斬られっぱなしだけど

 

洗濯物を洗濯機に放り込んで洗剤は適当、まわってる内に洗い物

洗濯は毎日してるから少量で時間はかか

 

「あ・・・体操服だしとくの忘れてた」

 

もう駄目だ・・両手をついてうなだれる

なんでいつもいつも洗濯機をまわしはじめじゃなくて脱水してるあたりで言い出す

もう遅いんだよ

 

「琥珀ちゃん、はーちゃん泣いてない?」

 

「蛇口閉めとけば?」

 

「どこが閉め栓でどこがメーターかな?」

 

んなもんあってたまるか!

これ以上突き合わされたら死ぬ、その前に壊れる

脱水から入れてしまえ、そしてさっさと朝連へ行こう

 

 

 

めんどうだったので体操服のまま登校、教室へ行かずにグランドに直行

もう既に朝連は終盤で教室へ帰るものがちらほら

 

「はーちゃん遅かったね、灰谷キャプテンとかみんなもう教室いっちゃったよ」

 

「今朝は特に色々あったんだよ」

 

俺に声を掛けて来たのは赤森 双葉、クラスメートで同じ野球部

俺の周りにいる奴では最後の良心

 

「1球打ってく?ストレスたまってるでしょ」

 

こんな生活しててストレスたまらない奴がいたら俺はそいつを殺してすりかわるぞ

     ・なんの意味もないけどな

双葉がゆっくりと振りかぶりボールを投げる、ボールが俺に届くまでに見たのは

いつのまにかグランドの向こうに現れた琥珀

そしてその拳の親指が空を指していた状態から180度回転して地を指した姿

 

「死ねええええ!!」

 

全身全霊そしてスパイスに呪いを込めて振ったバットはボールをジャストミート

高く・・高く上がったボールは鳥のように大空を羽ばたきそのまま

教室の窓に突き刺さり、最後の良心も俺の元から逃げ出した      

 

 

怒り狂う教頭から開放された時はすでに一限が始まっていた

今日の一限は担任の紫暮さんの現国だ少々時間をもらって(奪って)琥珀と決着をつけよう

そう意気込んで教室のドアの前に立つと聞こえてきたのは

 

「すごいやお姉さん!」

 

教育番組にありがちな台詞・・・ってちょっと待て!

今は現国の時間ってかここは高校だ、すごいお姉さんの出番はねえ!!

 

「琥珀―!!」

 

勢いよく扉を開け教室に踏み込むとそこには教育番組のお姉さん(琥珀)とナマモノ(双葉)

やっぱりお前等か、そのアンバランスに幼い衣装はまだしもキグルミはどっから持ってきた

それより紫暮さんはどうした

教室を見回すと俺の席に座っている紫暮さん、しかもどうしていいか解らずオロオロしてるし

 

「紫暮さん・・何やってるんですか」

 

「だって鋼君がいないと琥珀さん歯止めが利かなくて」

 

「だってじゃない、貴方は教師でしょ」

 

少し言い方はきついけど、紫暮さんにはしっかりしてもらわないと俺の負担が底なしだ

人間の基本は不幸を共にし幸福は分かち合う、幸福分けなくていいからせめて不幸はともにしてくれ

 

「ちゃんと言葉にして言えば琥珀だって解ってくれますから(たぶん)」

 

「あったりまえじゃない、人の嫌がることは決していたしませんことよ」

 

ホホホと口元に手を当てておかしな言葉遣いをしている琥珀は無視して紫暮さんをなぐさめんと

ささ紫暮さん琥珀にガツンと言ってくれ、言わなきゃ力ずくで言わせる

 

「琥珀さん、授業中にコスプレはやめましょうね」

 

俺は一六年一緒に生きてきて琥珀のことを何も解っちゃいなかった

満面の笑みでアイツは言いやがった

 

「嫌です♪」

 

「わあああやっぱり私に教師なんて無理なんだわ」

 

泣き崩れる紫暮さんにコロコロと悪魔の笑みを浮かべる琥珀

だんだんむかついてきた、悪魔の姉に泣きわめく教師・・極めつけはキグルミが引っかかって脱げない双葉

紫暮さんを慰めるのはやめにして手近にある机を都合の良い位置に移動させて

 

ズドム

 

今日二度目の全身全霊プラス純粋な破壊のスパイスを込めて机を殴りへこませる

興味深く俺らのやり取りを見ていたクラスメートも見ていなかった者もシンと静まり注目する

 

「残り授業時間三十分・・喋った奴は消す」

 

俺は本気だ、マジでもホンキでもどっちでも良い本気だ

喋った奴は容赦なく塩水の海ではなく血の海に沈んでも

 

「鋼ってばもしかして恭子ちゃんのことが好き?」

 

って琥珀!三十秒もたってないぞ!!

しかも何でそうなる!シナプスだかニューロンだか知らんがどうつながっとるんだ

貴様の頭は教室のドアを開けたらそこはアメリカはニューヨークの裏街道かい!

だれだ!口笛吹いた奴は、そこのメガネなんで携帯で結婚式場予約し始める

 

「鋼君・・・」

 

ええい!潤んだ目でみるな頬を染めるな紫暮さんしかもなんで泣き止んでやがる

味方!味方はいないのか!!

 

「は〜ちゃ〜ん・・」

 

双葉お前がいた、さっきは逃げたが最後の良

 

「脱げないよ〜」

 

もう無視だ一生かぶってろ

あ〜ちきしょお、なんで思いと行動の真逆に結果が進んでいくんだ人生の方向音痴なのか

 

ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう

 

ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう

 

ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう

 

ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう

 

ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう

 

「さっきからなんだこのクラスはうるさいぞ!」

 

突然ガラっと開いた教室のドアに怒鳴り込んできた隣の教室の教師

 

「うるさいのは俺じゃねー!!」

 

とっさに怒鳴り返したのはまあアレだ、情緒不安定だ

ついでに右ストレートが教師の顔面に突き刺さったのはおまけだ、もう一発もらうか?

クラスを静める犠牲となった俺は・・停学、謹慎処分1週間の栄誉をもらった